岩本さんは様々なお仕事をされていると思いますが、ざっくりと概要をお伺いできますでしょうか?
岩本
『キャプテン翼のライツ事業』、南葛SC、メディア事業の3つが柱です。
株式会社TSUBASAではいくつかの仕事があります。柱としては、『キャプテン翼』の版権管理事業です。
キャプテン翼の権利を使って、色々なプロモーションに使ったり、マーチャンダイジングに使ったり、そういうものの管理をグローバルでやっています。
あと2つあって、1つが『キャプテン翼』から紐づいた南葛SCというJリーグを目指している葛飾のクラブの運営です。そこで代表取締役専務兼GMという肩書きがありますが、それは仕事というよりもライフワークという感じです。事業と選手の監督、両方の責任者をやらせてもらっています。社長は高橋先生なので、高橋先生と相談しながらやっています。
もう1つが、『リアルスポーツ』というスポーツメディアの編集長です。スポーツメディアの仕事も25年くらいやっているので、これもビジネスというよりは、自分自身のライフワークに近い形でやっていますね。それに派生して全国ネットのFMでラジオとかもやっていたりするのですが、これも大きく括るとメディアですね。
選手だけではなく俳優や棋士など、幅広い方にインタビューされていると思うのですが、インタビューの際に共通で気をつけていることはありますか?
岩本
アンケートにならないように気をつけています。聞いて返してきたことにまた自分が用意したものを聞いてという形だと、全然インタビューの奥行きみたいなものが生まれないので、ちゃんと向こうが返してきたことに対してその場でさらに深い答えが得られるような質問を投げるということはかなり心がけています。あと、そういう人たちはインタビューを月に何本も、人によっては何十本も受けたりするケースもあるので、他の人と一緒にならないかとか、ちゃんと貴方のことをわかって取材に来てるんだよ、というのを最初の10分とか、すごく難しい人だったら20分とか、こっちのことも理解してもらいながらインタビューを進めるための時間に使うこともあります。
例えば昔、本田圭佑選手がロシアでプレイしていた時にある雑誌の創刊のインタビューがありました。当時の本田圭佑選手はインタビューを全く受けないスタンスだったので、そのインタビューに行った時は前日の試合の話を冒頭に20分くらいしました。例えば「その試合で本田圭佑選手がどういうことを考えていたか」をこちらが推測してディティールの部分をきいて、「おぉ、なんかこのインタビュー珍しいな」という感じになったり。そこまで見ててくれるのか、というのを向こうが実際に感じたみたいで、結局1時間半くらいインタビューさせてもらえましたね。深い話になったり、彼の人生哲学の話になったりしてたので、そういう信頼関係を得られる時間というのはすごく大事にしています。
岩本
難しいインタビューはたくさんありました。やっぱり全然違うジャンルは下調べも含めて苦労します。例えばダルビッシュ選手や大谷翔平選手のインタビューですね。自分は野球は好きですが、競技として野球をやってたわけじゃないですし、その中でそういう人たちからどうやって深い話を聞き出するのか、というのは最初は手探りで模索しながらになりますね。でもダルビッシュ選手のインタビューは5回以上やらせてもらっているのかな。そういう経験はあったので、大谷翔平選手の時は、むしろその時より少し楽でした。トップの野球選手の思考みたいなものがある程度はわかった段階でインタビューをしたので。あとは当たり前ですけど、野球に関しては技術論の難しいところをこっちから偉そうに語らないよう気をつけました。
あとは2010年くらいに、あるメーカーと一冊丸ごとサッカー選手をまとめた雑誌を出す案件があってインタビューに行かせてもらったんですけど。3週間くらいヨーロッパに行って、日本のクラブ所属の選手も含めて14人くらいのインタビューを全部自分が担当するのが条件という仕事で。取材するのはいいんですど、それを全部原稿の形にするのがすごく大変で2週間くらい会社に泊まり込みました。昼は普通に別の仕事をしているので、そのあと会社で夜ずっと原稿を書いた事が一番大変でしたね。1人の原稿が1万字近くあって、書籍1冊くらいのボリュームだったのですが、雑誌のインタビュー部分に関しては基本的に全部自分でやっていたので。
それはかなり大変そうですね…
言ってもらいたいことがインタビューの中であると思うのですが、そういう方向に誘導したりすることもあるのでしょうか?
岩本
まず本人が言いたくないことは言わせないので、クライアントから「こういうことを引き出したい」みたいなことを言われても、「それは多分無理だと思います」といった話を最初にします。そこがズレているとクライアントとのズレがあるのでそこに関しては「最低限こういうことは聞くけど、それを言わせようとするといいインタビューになりませんよ」というすり合わせを最初にします。どんなコメントを引き出すかを意識してインタビューするとあまりうまくいかないので、インタビューが終わって信頼関係ができた後に、話しながら正解を見つけた言葉をもう一回言ってもらうとか、そういうことをします。下手に言わせようとすると、相手は敏感に気づいて言ってくれなかったりするので。
途中で出なかった場合は最後の方に言ったりとか、正直に話すのが結構大事かなと思います。
そういったテクニックや気づきはインタビューをしていく中で培われたのですか?
岩本
正直、ミーティングのこともインタビューって英語で言うくらいなので。ちゃんと選手や経営者にインタビューしにいくというとき以外でも毎日多い時は5人から10人と会ったり、夜も会食で人と会ったりしていて毎日ずっとインタビューをやっているようなものなので、ある意味自信があるというか。それこそGM業も、監督や選手と話すっていうのも仕事ですし。だから普通にインタビューするほうが仕事でとんでもない金額をクライアントからいただくとか、J1でプレイしている選手を南葛に口説くとかよりも簡単だと思います。相手の気持ちを動かしたり、コントロールしたりするほうがよっぽど難しいというか。インタビューは別に、コントロールしなくても、信頼してもらえればある程度言葉に勝手にでてくるものなので。
よく新宿ゴールデン街に一人で飲みに行ったりするんですけど、その時に赤の他人がカウンターの並びにいて、そういう人と話したりする時も結果的にはインタビューのトレーニングになっているんだろうなと。相手のバックボーンも全然わからない中で話を聞いているというのは、ある意味インタビューのなかでは究極の形だと思いますね。
私が思うインタビューが上手い人は、会話の流れの中で相手にも発見を与えながら聞き出せるような人かなと思うんですけれども、いかがでしょうか?
岩本
それは確かに。例えば選手に限らず、インタビュイーが自分でもまだ言語化できていないようなことをインタビューを通して言語化できるようになるというか。たとえば三浦知良さん、カズさんのインタビューの時に、今までのインタビューでは言っていなかった「サッカー選手のまま死にたい」という言葉が出てきました。元日本代表とかではなくて、現役のプロサッカー選手の三浦知良のまま死にたい、という言葉です。「インタビューでそういうことを言ったの、初めてだったな」ということをマネージャーさんが言っていたのですが、次のNHKさんの取材でそのフレーズ、すぐ言っちゃったんです。こっちは書籍だから後から出るのに、番組を見ていたらカズさんが普通にそのフレーズを使っていて。少しショックでしたが、そのフレーズはそのあともよく使っているので、カズさんの中でうまく言語化できたのかなと思いますね。
そのカズさんのインタビューでは死生観の話をしていました。ゴッドファーザーについて話していたんですけど、せっかくだから飽きるまで話を聞こうと思って。そしたら5分くらいのつもりが30分くらいになってしまいました。でも言語化する時というのは、長いインタビューをすることが多いので、そういう時に考えがまとまって良かった、と言ってもらえたりすることもあります。
あらゆる活動をしていく中で弊社と関わっていただいていると思いますが、カンパニーと仕事をしていて面白いなと感じる部分はありますか。
岩本
全部の仕事を把握しているわけではないですが、それこそ1案件1案件が同じ形じゃなくて、クライアントによって、パートナーによって、全く違う形の仕事をしているのは面白いなと思いますね。一応デザインという軸は通っているのでしょうが、状況によっては「これデザインじゃないよね」というレベルの事もやっているのがすごく面白いですね。会社でやっている事をひとことで言えないところが、ある意味魅力なんじゃないかなと思います。それこそ今風だなと思いますけどね。10年後の会社の姿が想像できないというか。
南葛SCのサイト制作で言うと色々ご迷惑をお掛けしたところもあるのですが、でもやっぱり今までと違って今風なデザインになったので、ファンやサポーターの人からの評判はよかったですね。あと仕事をしている中で、ちゃんとこっちの意図を汲み取ろうと凄く考えてくれていて。それこそトライアンドエラーでうまくいかなかったら修正してというのをやってくれていたので、その辺は杓子定規な仕事じゃなくて、南葛というクラブの風土と合っているのかなと思います。
色々なお仕事を経験されてきた岩本さんの、今後の展望をお伺いしたいです。
岩本
2つあって、1つは南葛SCをJリーグ、そしてアジアを代表するクラブにすることです。それは全部自分でやるのではなくて、他の人が成し遂げても全然いいなと思っていて。その次のパートナー選び、経営者選びみたいなのも含めて仕事だと思っていますね。あとは『キャプテン翼』という作品を今一度、世界的に旬な作品にしたいです。高橋先生が亡くなっても自分が死んでも、未来永劫続くような設計作りを今しているので、『キャプテン翼』によって世界中のサッカーが繋がるようなポジションにこの作品が行ってくれたらいいなと思っています。
素敵な展望ですね!本日は貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします!