ゼロから作るブランド"らしさ"の作り方

湯川健太 – ゼロから作るブランド”らしさ”の作り方

ゼロから作るブランド"らしさ"の作り方

株式会社コソド 取締役CMO
湯川 健太(ゆがわ けんた)

ゼロから作るブランド"らしさ"の作り方

これまで忌み嫌われる存在だった喫煙所が、どのようにして唯一無二の世界観を作り出していったのか。
今や超個性的な媒体として進化し続ける喫煙所の裏側にある戦略的ブランディングとは?
Photo: Kazunari Ogawa
Edit: Keisuke Tachibana
「喫煙所」というあまり馴染みのないビジネスを展開されてるコソドさんですが、どのような会社なのか教えていただけますか?
湯川
設立は2019年です。事業は大きく2つあって、ひとつが公衆喫煙所『THE TOBACCO(ザ・タバコ)』の設営・運営。もうひとつが、その中にモニターを設置して展開しているデジタルサイネージメディア『BREAK(ブレイク)』の運営です。つまり、「喫煙所」という空間を軸に、リアルとメディアの両面から事業を展開しています。

会社のミッションは「空間に新たな価値を創造し、人々の多様な”好き”をつなぐ。」。

喫煙所って、これまで誰も注目してこなかった存在なんですよ。でも都市を見渡せば何千、何万とある。そこに新しい意味を与えるのが僕たちの役割です。

最近では広告媒体だけでなく、喫煙所の空間内でサンプリングや体験ができるプロモーションも増えています。メディアとしての「見せる価値」だけでなく、「体験させる価値」をどう生むか——そこに挑戦している感じですね。
湯川さんがコソド社に入社されたのはいつ頃ですか?またその時はどのような状況で、どんな経緯で参画されることになったのでしょうか?
湯川
入社は2023年、ちょうど2年前くらいですね。THE TOBACCOは公衆喫煙所なので、20歳以上なら誰でも無料で使えます。つまり“箱”があるだけではお金を生みづらい。でも、一定の規模(施設数)がないと、メディアとしては成立しにくい。でも規模を出すにはお金も必要で…(笑)。

単に“場”を提供するだけでなく、それを持続可能な仕組みとして成立させること、ビジネスとしてきちんと回るモデルにすることが、当時代表山下が苦労していた最大のテーマでした。そんな中で、モニターを設置して動画メディアとして展開することで、広告収益を喫煙所づくりに再投資できる循環モデルが見えてきたんです。

そのタイミングで「一緒にやらないか」と声をかけてもらい、私自身もちょうど前職でのミッションに一区切りがついてキャリアを模索していた時期が重なって。

正直、リアルメディアもサイネージも初めてでした。でも、長年デジタルマーケティングをやってきた立場からすると、「リアルをメディアとして再構築する」ってめちゃくちゃ面白い。未知の領域を自由に任せてもらえる環境に惹かれました。
初めて聞いた時の印象はそんな感じだったんですね。箱ものを使って広告収益に変えていく、というところにワクワクされたという感じですか?
湯川
そうです。最初、1号店を作るって聞いたとき、「え?どうやってマネタイズするんですか?」って(笑)。山下も「分かんない。たぶん儲からないけどやってみるわ」って言ってて(笑)。でも気づいたらちゃんとビジネスとして回り始めてて、「え、そんなことになってたの?」って驚いたんですよ。
湯川さんが入社された時には何店舗ぐらいあったんですか?
湯川
10数店舗ぐらいでしたね。
そこから今や500面展開されているんですよね。すごい成長ですよね。
湯川
はい、そうですね。サイネージ「BREAK」の展開箇所が500箇所以上、公衆喫煙所「THE TOBACCO」は約200店舗まできています。(2025年11月現在)
どこも個性的な喫煙所を作られていますよね。僕も最初の店舗作りをお手伝いしたり、下北沢の喫煙所など色々と拝見しました。デザインは全然違うのに一貫したコンセプトを感じます。何か大事にされていることはありますか?
湯川
そもそも「なぜデザイン性にこだわるのか」というところですね。ただ吸えればいい空間ではなく、吸っていて気持ちいい、清潔でスタイリッシュな場所にすることで、利用者のマナーも自然と変わるんですよ。

汚い場所って、「まぁ汚してもいいか」って気持ちになりますよね。
でもきれいで心地いい空間だと、自然と丁寧に使いたくなる、わざわざ行きたくなる。
だからデザイン性って、単なる見た目じゃなくて、行動を変える仕掛けでもあるんです。
なるほど。汚い場所だとさらに汚してもいいか、という気持ちになりますもんね。
湯川
そうですね。もちろん、ルールとしての喫煙所は設置されてはいるのですが、利用が進みにくい背景には、“空間設計と運用設計の快適性”という視点が欠けていた面もあったのかもしれないー、だから1号店を作る時に山下は、心地良さやデザインにはこだわろうと。
最初に我々が関わった時に気にしていた考え方が、そのまま生きているんですね。
毎回店舗ごとにデザインを変えている理由などはあるんでしょうか?
湯川
単に全店舗が違わないと面白くない、代表山下もそれは意識していると思います(笑)。
広告媒体としての話も伺いたいのですが、現在の展開状況を教えていただけますか?
湯川
喫煙所の中に、大体40インチから50インチの大型モニター、音も出せるものを設置しています。自社運営の喫煙所だけでなく、都心オフィスビル内喫煙所にもモニターだけ設置するスタイルで拡大中です。

いま都内中心に500箇所以上に設置が完了していて、約520万人のビジネスパーソンにリーチできる動画サイネージ媒体になっています。

いわば、「タクシー広告の喫煙所版」。6分間の滞在時間と、日常的な接触頻度を掛け合わせると、メディアとしての価値は非常に高いと感じています。
最初、これを始められて「本当に広告が入るのかな」という不安もあったと思うんですが、どのあたりから手応えを感じられましたか?
湯川
大きく2つあって。ひとつは、滞在時間の長さです。街中広告の多くは、通り過ぎてしまいますが、喫煙所は1回利用あたり6分間滞在。しかも休憩中で暇、ちょっと無防備な状態。接触態度と接触時間が、いわゆるOOH(街中広告)の中では圧倒的に優位性がある。


もうひとつは、規模が出たときの変化ですね。100ビル・リーチ100万人の頃は“面白い取り組み”で終わっていたけど、400万人を超えたあたりで、大手クライアントから「ぜひ使いたい」という声が増えました。そこがひとつの転換点でしたね。
「数」に加えて「滞在時間」が、面白い媒体だという手応えになったんですね。今後、500箇所から、どれぐらいまで増え続けるんですか?
湯川
都心にはまだまだ喫煙所があるので、現在は月10ビル程度のペースで増やしています。
その先は地方や商業施設への展開ですね。オフィスビル中心だった層とは違うターゲットが見えてくるので、媒体としての見せ方も変えていく必要はありますが。
なるほど。商業ビルとオフィスビルではまた視聴者層が違いますもんね。
今後はどのような展開をお考えなんでしょうか?
湯川
今は「6分間の滞在・体験価値を、さらに高めていくこと」に挑戦しています。
サンプリングしたり商品を体験してもらったり、サイネージで流れている動画と連動したプロモーションをしたり。それを、数百万人単位で展開できる、これはとても稀有なアセットだと手応えを感じています。

あとは、イマーシブな体験も進めています。今日の夕方、現場に行く予定なんですが。
イマーシブ?没入体験ということですか?
湯川
そうです。縦型のモニターや色んなサイズ、大きいものから小さいものを散りばめて、いろんな動画が無数に流れている状態の喫煙所空間を作っていこうと思っています。今、AI動画を使いながら、タバコをテーマに「バイクに乗りながらタバコを吸う」とか「麻雀をしながら」とか、今となってはちょっと違和感のある動画を作って、それをいろんな形で流してみるというのがテスト的に始まります。
迫力のある面白そうな演出になりそうですね。どこの店舗からスタートするんですか?
湯川
まずは丸の内(THE TOBACCO 2:50.76)です。11月にはお披露目予定です。
それもゆくゆくは広告商品になっていくと。体験価値を高めて、箱としてのグレードを上げていくということなんですかね?
湯川
まさにそんな感じです。
ここからは少し、うちの会社について聞かせてください。湯川さんとは実は長いお付き合いで、コソド参画前にも色々な案件をご一緒させていただいています。
弊社は「ブランディング」において「伴走者」という立ち位置で、ブランドや会社さんと一緒に取り組んでいます。私たちの伴走者としての姿勢について、湯川さんから個人的な感想をいただけますか?
湯川
そうですね。フレブルライフ(※)の頃から色んな案件で一緒にやってきて、THE TOBACCOではロゴなどでもお世話になってます。

僕自身はTHE TOBACCOのロゴ開発に直接関わってはいないんですが、初めてロゴを見たときに一気にイメージが変わったんですよね。「あ、これは設備の話じゃなくてブランドを立ち上げる話だ」って。

カンパニーさんが手掛けるブランドやロゴ、WEBサイトは、出てきたものが「今かっこいい」とか「今やりたいことを実現できる」ものではないんです。年月で言えば10年先、20年先をしっかりと見据えたものなんじゃないかなと思っています。

今のTHE TOBACCOで言うと、200店舗もやる予定なんて当初1ミリも話してなかったはずなんですけど、200店舗あっても耐えられるロゴ。長く続く、成長していけるブランド作りが前提なんだなって、すごく感じるんです。

それって、短期ではなく“成長の前提”を見据えているデザインなんですよね。

※フレブルライフ:湯川氏が以前手がていたフレンチブルドッグ専門のメディア
めちゃめちゃ嬉しいこと言ってくれてありがとうございます(笑)
実は社内で最近「何が他社と違うのか」を明確にしようという話が出ていて、そこで出てきたのが「耐久性」なんです。
湯川
おー(笑)
フレブルライフもそうですけど、もうロゴを作ってから10年経ちますよね。でもまだ全然ピンピンしてるんですよ。ロゴをリニューアルするなんていう概念がない。未だに使い続けている。今回のインタビューの話を頂いて、そのあたりを改めて考えてすごいなと思ったんです。10年経っても古臭さが出ない。200店舗あっても耐えられる。それってすごいことだなって。
ありがとうございます。僕らがもらって一番嬉しい言葉をいただいたので、これを大々的にプッシュしようと思います(笑)。
最後に、ザ・カンパニーに対して、メッセージや感想、レビューをいただけますか?
湯川
生意気な表現になってしまうんですが...結論から言うと「斜め上」なんです。
デザインもロゴもそうなんですけど、依頼する時には理由があって、理想があって、課題がある。全く具体的な絵はないんだけど「たぶんこんな感じ」って漠然としたイメージをクライアントは絶対持っているんですね。
それにいかに応えるか、すり合わせていくかがプロジェクトだと思うんですが、でも、カンパニーさんは一発目からその理想を超えてくる。しかも真上じゃなくて、ちょっと斜め上(笑)。

だから、パッと見た時「うん?」って思うんですけど、しばらく見ていくと「いや、これしかない」って腹落ちするんです。それは時間が経てば経つほど感じてくるんですよね。クライアントが思い描いていたイメージよりも先を見据えてつくってるんだなと感じます。表面的ではなく本質的でなんだと思います。
そのように言っていただけて本当にうれしいです。今後も引き続き、よろしくお願いします!

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