イベントレポート・「とある村」の夏休み〈体験型農村フェス〉その12019.08.30
温泉を巡る旅をしていた私だが、古い友人が初めてフェスを立ち上げると聞き速足で秋田まで北上した。到着したのは8月14日、イベント当日の3日前だった。
秋田県仙北市、田沢湖からすぐのところに刺巻(さしまき)という集落がある。
秋田と岩手を結ぶ県道沿いに隠れるように田園が広がり、それを囲んで50世帯程がひっそりと暮らす小さな農村だ。
田んぼの脇に走る路線に紅色の秋田新幹線こまちが時たまゆっくりと走っていく。
そんな「とある」田舎に友人のサモンは居を構えて4年になる。
愛媛の仕事で一緒だった以来、7年ぶりに再会した彼は相変わらずだったが、2児の父になっていた。奥さんになった愛子ちゃんは看護師をしていて夫と家庭をどっしりと支えている。誰が見ても微笑ましい明るい家庭を築き、田舎へ移住する若者を絵に描いたようだ。
そんな友人が右も左も分からないままフェスと称するイベントの第一回を開催しようとする。少しでも手を貸そうではないか。
詳細はよくわからないがとりあえず行ってみよう。
さぁさぁ、はたして。
お盆は各地で雨の所も多く予定を変更された方も沢山いらっしゃるだろう。
秋田もかなりの雨量で、イベント前日は土砂降りだ。なんとかかんとかずぶ濡れに濡れて設営を強行するといった具合だった。
私と同じく福島から応援に(遊びに)駆け付けた旧友のショウゴ君も加わり、5.6人というフェスの立ち上げには極小すぎる人数で会場はなんとか形が見え始める程度だった。
「これ、本当にフェス前日の風景なの?」
軽トラで行きかう度にぬかるむ導線。
行き違いの段取り。
降りしきる雨(ショウゴ君は何故かその中、海パン一丁)。
そしてシーンと、集落の静けさ。
誰しもが不安と当日の「スカ」の様子を頭に思い浮かべる。
それでもオーガナイザーのサモンはイベント決行をHPにアップした。
そんなことは当然だ。
客が0でもとりあえず一回目をやればいいんだ。と、少なくてもサモンと私とショウゴ君は思っていただろう。
フジロックだって初回は嵐、タイコクラブだって赤ギリギリだったのだ。
とにかくやりゃぁ何かが始まるんだから。
当日は雨風が入り混じる中、タイムテーブルと関係なしの遅い足取りで人が集まり出した。
牧草地の会場への搬入はリヤカーを貸し出してえんやこら。出展ブースもスタッフたちが手伝ってなんとか設営に漕ぎつける。
夜にライトアップされてメインのオブジェとなるはずだった巨大なティピ型のテントは強風のため撤去。ステージ屋根の巨大タープは雨が溜まり、たわむ度にみんなをひやひやさせていた。
ヘッドライナーが青谷明日香さんというと、イベントの規模がなんとなくおわかりになるだろうか。
音楽イベントと考えるとフェスとしては小規模なものだ。
しかし副題にある「体験型農村フェス」とあるように、このイベントは農村の暮らしを体験することが半分メインのイベントになっている。
ツリークライミング、魚のつかみ取り、ヨガ、工作のワークショップ、百連凧、倒木、キャンドルナイト、花火、野菜の収穫とそれで作るカレー。
オーガナイザーの思惑がこの悪天と共にどう体現されるのか。
生き物の生から死を見守る気分にちょっと近い。
続く。