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お茶の仕事・工場編2020.09.11

日本の緑茶の大半は最初の行程でまず蒸されることがほとんどだが、私の働く地域では釜で炒って製茶される。

いわゆる釜炒り茶と呼ばれるものだ。

 

茶工場の行程を簡単に説明すると、茶葉を炒って、揉んで、乾かして、選別して、密封する。この工程を行う9つの機械を3人で運転する。

 

 

 

 

お茶の炒り具合、乾き具合、香り、艶なんかを見ながら機械をいじる。

バーナーの温度、風量、釜の回転数、角度、時間を調整してだんだんと茶葉を小さくして普段目にするお茶っぱの形へと近づけていく。

最初の頃は何が正解なのか分からなかった。

茶葉を触っても嗅いでもピンとくるものが掴めない。

機械の騒音と舞い散る茶埃に翻弄されてもんもんとする数週間が続いた。

 

 

 

 

しかし人間とはすごいもので、やっていればいつかはちゃんと「分かる」ようになってくるものだ。よかったよかった。

葉っぱをつかんだ時に感じるハリやコシ、水分の残り具合。香りがたっているか。必要以上に色気が失われていないか。そんなことが日に日に実感できるようになる。

職人といわれる人は経験がモノをいうということをやっと理解した気がする。

音楽でもワインでもそうだが、経験値が多ければその分比較ができて判断に裏付けができるようになる。分からなくてもいいからとにかく手で触って鼻で嗅いで感覚を体で覚えるだけの作業だ。

言葉で説明されても分からず共感できない感覚も、経験から体得すればそれを共有することができると分かったのはとても大きな経験だ。

見えない所にも確かな答えが必ずある。

 

そうなってくるとお茶を飲むことは格段と面白い。

最後の行程で出来上がったばかりの「製品」を毎日試飲と称して飲む、飲む、飲む。

 

「甘い、やさしいねこれは。味が手前から出てるのは珍しいな。芋、豆感あるね」

「二煎目のほうが美味しいかもね。これはシャキッ系だね。水出しでもおいしそうだ」

 

ワインの味を色んな言葉を駆使して表現しようとするのは決して誇張ではないと思う。

実際に口のなかに拡がる感覚は無限で、それを言葉で表現するという不可能な作業をしようとすると自然とそうなってしまうのだ。決して個人的な美辞麗句で飾っているわけではなく、理解される共通の感覚だ。

 

そんな奥深さのためかお茶の品種はザ・日本茶的な美しい名前のものが多い。

 

みなみかおり

おくゆたか

さえみどり

たかちほ

やまなみ

さやまかおり

 

なんか、好きな女性の名前つけちゃったんでしょ?ってのもあるが、日本の精悍な田舎を彷彿とさせてくれる素敵なネーミングばかりだ。

 

 

 

 

工場で茶葉の流れを追っていると製品、商品としてのお茶がどういうものなのかよくわかる。

原料の状態や人間の手がどう入るかによってお茶の良し悪しは変わって来る。

同じパッケージに入っていても中身の味は「けっこう」違うというのは作り手からすると当たり前のことだ。「特選」としてくくられていてもその中の茶葉の品種は異なっていたりミックスであって、さらにどんなミックスになっているかは作り手でも分からない。ミックスする人はまた違う工程の人で、その時の状況は工場の私は見ることはない。

なので、工場製品というのは完全な均一というのはあり得ない。

所詮人間の業なのだ。

 

卵、マヨネーズ、塩、水、コショウ、ワカメ、板チョコ、乾麺、ビール、などなどなど。

色んな素材が色んな工場の旅を終えてスーパーの棚に並んでいる。

私は最近原材料や生産地の表示によくよく目を通すようになった。

既製品の中にある反抗的な個性のような、そんな性質を想うとなんだか興奮する。同時に、工場であっても製造者の姿や加工の行程を想像することは味わうことをより深くさせてくれる。

 

工場仕事は一見単調な機械いじりの仕事だ。しかし、やり方次第では想像力を掻き立てられる食品製造の遊び場だ。

最近は一つ一つの機械がおもちゃのように見えてきた。

あれ?疲れているのか?あはは。

最後に休んだのは3週間以上前である。

 

とにかく!本日もうまいお茶をつくり出すのだ。

 

出勤!

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