塩の湖・ボリビア、ウユニ体験記2015.12.9
ウユニ塩湖の写真集を書店でよく目にするようになった。
CDジャケットのデザインや、確かCMでも見た記憶がある。
塩の湖に反射するその幻想的な風景はブランディングには最高だろう。
「世界一の絶景!」
「一生に一度は行きたい!」
という、ありきたりなキャッチフレーズが本の帯には載っているが、はい、その通りです!と私も素直に賛同してしまう。
南米アンデス山脈、その中腹にあるボリビアという国に広がる塩の湖、ウユニ塩湖。
標高3700メートルに位置する広大な平原は乾季には一面真っ白な塩の大地、雨季は水がはけずに湖となる。
私が行った2月は乾季前で、雨の具合によっては湖となる場所がまだ残っていた。
湖近くの町で雨風の様子をうかがい、8時間チャーターのランクルに乗っていざ湖の中へ出発する。ドライバーは水がどこに溜まるのか把握しているため、観光客が少ない所へとだけお願いしあとは全部お任せだ。
塩でごつごつだった路面にだんだんと水が張ってくる場所までやって来ると、地面すべてが空間を反射していた。
反射というよりは、地面が自分の足元からすべて鏡になってしまったという方がいい。
思わず息を飲み込む。
周囲にはほとんど何も見えず、明るい時間に目を凝らすとやっと遠くの山の稜線が見えるほどになる。
残りは地平(水平)線だ。360度。
そこに流れていく雲、太陽、月、群れをなして飛んでいくピンクのフラミンゴ、時に稲妻、変わりゆく空のグラデーション、それ以外は何もない。
何もないというよりかは、景色の中、球体のスクリーンの中に自分がすっぽりと包まれてしまったような感覚だ。
匂い、そして音が全くない。
砂漠や海と同様の無言で無限のスケール感が迫ってくる。
日の入りはかすかに見える稜線に太陽が沈んでいく時間で色のグラデーションが最高潮に達する。シャッターを押す時間も惜しく、ただただ遠くを見つめる。
夜が訪れ光が星明りと月だけになると、真っ先に平衡感覚が失われる。
足元に星が広がり、もはや地面を感じているのは足の裏だけで、目や脳味噌では地平線を感じることが出来ない。地面は無限の空間になってしまい、2,3歩あるくのもおぼつかない。
ふらふらと頼りなく歩くその様子は宇宙飛行士になってしまったと言っても言い過ぎでは決してない。
夜が進めば進むにつれて、そこが地球上だと感じることは難しくなってくる。
そして、朝がゆっくりとやってくる。
太陽が昇るにつれて、山の稜線は焦らすように深い黄色に染まり始め、優しいオレンジ、水色と色を取り戻していく。
ふと後ろを振り返るとそこにはまだ夜がいて、真っ暗なままだった。
もう何が何なんだかよく分からなくなって、ただ泣いてしまった。
長時間湖の上にいると、皆既日食の体験記にもあるような、「それまでとは違った感覚」に自分がなっていることに気が付く。
夜をまたいで同行した友達の顔を見ると、なんだか別人のような表情になっていた。
何度もウユニ塩湖に足を運んでいるという日本人のおじさんに「あ、もう見てきた顔だね」と湖畔の町で言い当てられたときは、ウユニ塩湖を体験した人とそうでない人のビフォーアフターがはっきりあるんだと納得した。
ウユニ塩湖は空の反射を見て楽しむ視覚だけでなく、体全体で感じる体験型の観光地だ。
柵や檻やルートや規則に縛られない、どこまでも広がる無限のスケールの空間をぜひ1度。
「一生に一度」、お約束します。