実は多くの企業が「ブランディング」という言葉を使いながら、その本質的な構造を理解できていません。あなたの会社でも、こんな症状が出ていませんか?社員が自社のビジョンを説明できない、顧客に選ばれる理由が曖昧になっている、採用した人材がすぐに辞めてしまう。
これらの問題の根本には、インナーブランディング(社内向け)とアウターブランディング(社外向け)の断絶があります。Gallup社の2024年調査によると、米国では従業員エンゲージメントが11年ぶりの低水準である30%まで低下し、これによって年間1.9兆ドルの生産性損失が発生しています。
一方で、効果的なブランディングを実践する企業は、21%高い収益性と17%高い生産性を実現しています。この違いを生み出すのが、インナーとアウターの戦略的な連携です。
本記事では、ザ・カンパニーが実際に手がけた事例を通じて、この二つのブランディングを効果的に活用する方法を解説します。
出典:Gallup “U.S. Employee Engagement Sinks to 10-Year Low” (2024)
出典:Haiilo “Employee Engagement Statistics You Need to Know” (2024)
ザ・カンパニーが手がけた帝人フロンティア株式会社様のSOLOTEXプロジェクトでは、まず徹底的な社内対話から始めました。技術者、営業担当者、経営層それぞれと向き合い、素材が持つ本質的な価値を言語化していきました。
その過程で見出したのが「ここちよさ、そろってる。」というブランドメッセージ。これは単なるキャッチコピーではなく、社員全員が共感できる価値の結晶でした。社内での理解と共感を基盤に、BtoB・BtoC両面での市場展開を成功に導きました。
スターバックスの事例 世界中で一貫したブランド体験を提供するスターバックスは、まず社員を「パートナー」と呼び、企業理念の徹底的な浸透を図っています。新入社員研修では、コーヒーの淹れ方よりも先に企業文化と価値観を学びます。この内側からの強さが、世界中どこでも変わらない「サードプレイス」体験を生み出しています。
パタゴニアの事例 アウトドアブランドのパタゴニアは、環境保護という明確な企業理念を社員全員が体現しています。社員には環境活動のための有給休暇が与えられ、オフィスでは実際にサステナブルな生活が実践されています。この真正性が、顧客からの絶大な信頼につながっています。
国内企業の変革事例 ある国内製造業では、インナーブランディングの徹底により、3年間で離職率を15%から5%に削減。同時に顧客満足度も20ポイント向上し、売上が1.5倍に成長しました。成功の鍵は、現場の声を経営に反映させる仕組みづくりと、全社員参加型のビジョン策定でした。
まず自社の「ブランド健康度」を診断します。以下のチェックリストで、インナーとアウターそれぞれの状態を確認してください。
インナーブランディング診断
アウターブランディング診断
診断結果を基に、内側から外側へ波及する戦略を設計します。
Phase 1:理念の再定義と言語化 ザ・カンパニーの「徹底的な対話」メソッドを活用し、企業の本質的な「らしさ」を見出します。経営層だけでなく、現場の社員も巻き込んだワークショップを実施。多様な視点から企業の存在意義を再定義します。
Phase 2:社内浸透プログラムの設計
Phase 3:外部展開の準備 社内で醸成された価値観を、顧客体験として設計します。タッチポイントマッピングを行い、各接点でどのような体験を提供するかを詳細に定義。
実行フェーズのポイント
AIとデータの活用
ハイブリッドワーク対応 調査によると、ハイブリッドワーカーのエンゲージメント率は81%と、完全リモート(78%)や完全出社(72%)よりも高い結果が出ています。この特性を活かした施策設計が重要です。
(Haiilo “Employee Engagement Statistics You Need to Know” (2024))
リモート環境での工夫 リモートワーカーの62%が在宅勤務の方が生産的だと感じている一方、69%がバーンアウトを経験しているという調査結果があります。適切なサポート体制の構築が不可欠です。 (Haiilo “Employee Engagement Statistics You Need to Know” (2024))
まずは自社のブランディング診断から始めてみませんか?ザ・カンパニーでは、企業の「らしさ」を見出し、それを内外に効果的に伝える支援を行っています。
インナーブランディングとアウターブランディングの統合は、簡単ではありません。しかし、徹底的な対話と戦略的な実践により、必ず企業の大きな資産となります。あなたの企業も、本質的な魅力を引き出すブランディングを始めてみませんか?
A. 理想的にはインナーブランディングから始めることをおすすめします。社員が企業の価値観を深く理解し、体現できる状態を作ることで、アウターブランディングの効果も格段に高まります。ただし、緊急性の高い市場対応が必要な場合は、並行して進めながら徐々に連携を深めていく方法も効果的です。重要なのは、両者を独立した活動として捉えるのではなく、一貫した戦略の中で設計することです。
A. むしろ中小企業こそインナーブランディングが重要です。規模が小さい分、社員一人ひとりの影響力が大きく、組織文化の浸透も比較的スムーズに進められます。大企業のような大規模な施策は不要で、定期的な対話の場を設けたり、経営者の想いを直接伝える機会を作ったりすることから始められます。限られたリソースを最大限活かすためにも、全員が同じ方向を向くインナーブランディングは効果的です。
A. インナーブランディングは、従業員エンゲージメントスコア、離職率、社内推奨度(eNPS)などで測定できます。アウターブランディングは、ブランド認知度、想起率、推奨意向(NPS)、顧客生涯価値(LTV)などが指標となります。また、定性的な評価として、社員や顧客へのインタビュー調査も重要です。これらの指標を定期的にモニタリングし、PDCAサイクルを回すことで、ブランディング活動の改善につなげられます。
A. デジタルツールを最大限活用することが鍵となります。定期的なオンラインタウンホールミーティング、バーチャルランチ会、社内SNSでの価値観共有など、物理的な距離を超えたコミュニケーション設計が必要です。また、オンボーディングプログラムの充実、メンタリング制度の導入、デジタルワークショップの開催なども効果的です。重要なのは、偶発的な交流の機会を意図的に作り出し、組織の一体感を醸成することです。
A. 予算は企業規模や目標によって大きく異なりますが、売上の1〜3%程度を目安にすることが一般的です。ただし、初期段階では戦略立案やアイデンティティ開発に投資が必要になるため、やや多めの予算を確保することをおすすめします。重要なのは、一度に大きな投資をするのではなく、段階的に取り組みながら効果を検証し、徐々に規模を拡大していくことです。社内リソースを活用できる部分は内製化し、専門性が必要な部分は外部パートナーと協働するなど、効率的な予算配分を心がけましょう。
A. 主に3つのタイミングがあります。1つ目は事業戦略の大きな転換時(新市場進出、M&A、事業再編など)、2つ目は市場環境の大幅な変化時(技術革新、顧客ニーズの変化、競争環境の激変など)、3つ目は現行ブランドの陳腐化や形骸化が顕著になった時です。ただし、頻繁なリニューアルは逆効果になることもあるため、5〜10年を目安に定期的な健全性診断を行い、部分的な改善で対応できる場合は、フルリニューアルではなくリフレッシュに留めることも重要です。
取締役 プロデューサー
2016年よりプロデューサーとして課題解決型のブランディング施策を多数手掛ける。手法にとらわれないコミュニケーション設計を得意とする。