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2024/08/26
企業ブランディングの核心 – 効果的なステートメントの作り方と活用法

 

「私たちの会社は何のために存在するのか?」「どんな価値を提供したいのか?」

こうした根本的な問いに対する答えを明文化したものが、ブランドステートメントです。単なる美辞麗句ではなく、企業活動の羅針盤となるステートメントは、強いブランドを構築する上で欠かせない要素となっています。

本記事では、効果的なブランドステートメントの作り方から実践的な活用方法まで、具体例を交えながら解説します。実際に弊社が手掛けたブランディング事例も参考にしながらお読みください。

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1. ブランドステートメントとは何か

1-1. ステートメントの本質的な役割

ブランドステートメントは、企業の存在意義や提供価値を簡潔に表現した宣言文です。社内では全社員の行動指針となり、社外では顧客やパートナーとの約束として機能します。

例えば、弊社が手掛けた帝人フロンティア株式会社のSOLOTEX®ブランディングでは、機能素材の価値を「快適な暮らし」という視点から再定義し、B to C向けの認知拡大を実現しました。技術的な特徴を生活者視点のメッセージに変換することで、ブランドの本質的価値を伝えることに成功しています。

1-2. なぜ今、ステートメントが重要なのか

現代のビジネス環境では、商品やサービスの機能的な差別化が困難になっています。そんな中、企業の「なぜ」を明確にするステートメントは、以下の理由から重要性を増しています。

  • 意思決定の基準: 日々の業務で迷った時の判断軸となる
  • 一貫性の確保: マーケティングから採用活動まで、すべての活動に統一感をもたらす
  • 共感の創出: 価値観に共鳴する顧客や人材を引き寄せる

2. 効果的なステートメントの作成プロセス

効果的なステートメント作成ツール

段階的なプロセスで、心に響く企業ステートメントを作成しましょう

ステップ 1/3: 現状分析

📊 現状分析フェーズ

1
内部環境の棚卸し
自社の強み・独自性・企業文化を洗い出す
  • 創業時の想いと理念の確認
  • 他社にない技術・サービスの特定
  • 顧客から評価されているポイントの整理
  • 社員が誇りに思っている部分の調査
  • 過去の成功事例とその要因分析
  • 企業文化・組織風土の可視化
2
外部環境の把握
市場動向・競合分析で相対的な立ち位置を明確化
  • 業界全体のトレンドと将来性の調査
  • 主要競合他社のポジショニング分析
  • 顧客ニーズの変化と新たな要求の発見
  • 技術革新や規制変更の影響評価
  • 市場での自社の差別化要因の特定
  • 未開拓市場や新たな機会の探索
3
ステークホルダーの声
顧客・社員・投資家など関係者の意見を収集
  • 既存顧客へのインタビューやアンケート実施
  • 社員の会社に対する想いと期待の調査
  • 投資家・パートナー企業からの評価確認
  • 地域コミュニティでの認知度と評判調査
  • 退職者からの率直な意見収集
  • 新規顧客が求めている価値の把握

💡 分析フェーズのコツ

客観性を保つ:感情的にならず、データと事実に基づいて分析しましょう

多角的な視点:一つの角度だけでなく、様々な立場から自社を見つめ直します

記録の重要性:すべての発見は必ず記録し、後で振り返れるようにしておきます

✏️ ステートメント作成フェーズ

1
シンプルさを追求
誰でも理解できる平易な言葉で表現
  • 専門用語や業界用語の排除
  • 中学生でも理解できる言葉選び
  • 一文は20文字以内を目安に
  • 抽象的表現よりも具体的な表現
  • 余計な修飾語の削除
  • 本質的なメッセージのみに絞り込み
2
感情に訴える要素
共感を呼ぶ想いと情熱を込めて表現
  • 「なぜ」その事業をしているのかの明確化
  • 社会に与えたい影響の具体的表現
  • 顧客の生活がどう変わるかの描写
  • 創業者・経営陣の想いの反映
  • 未来への希望とビジョンの表現
  • 読む人の心を動かすストーリー性
3
具体性と普遍性のバランス
自社らしさと多くの人の共感を両立
  • 自社独自の価値と普遍的な価値の融合
  • 特定業界に限定されない表現
  • 時代を超えて通用する普遍性
  • 一方で自社らしい個性の表現
  • 差別化と共感の最適なバランス
  • 広すぎず狭すぎない適切な範囲設定

💡 作成フェーズのコツ

複数案の作成:一つに絞らず、複数のバリエーションを作って比較検討します

声に出して読む:実際に声に出すことで、リズムや語感を確認できます

第三者の視点:社内の人間以外にも見てもらい、客観的な評価を求めます

✅ 完成・チェックフェーズ

🎉 おめでとうございます!

効果的な企業ステートメントが完成しました

最終チェックポイント

理解しやすさ
初見の人でも3秒で理解できるか・専門用語は使われていないか・一文が長すぎないか
感情的インパクト
読む人の心を動かすか・共感を呼ぶ要素があるか・記憶に残りやすいか
独自性
他社と差別化できているか・自社らしさが表現されているか・オリジナリティがあるか

💡 継続的な改善のために

定期的な見直し:事業環境の変化に応じて、年1回程度の見直しを行います

効果測定:ステートメントの認知度や共感度を定期的に測定します

活用促進:作成して終わりではなく、積極的に様々な場面で活用します

2-1. 現状分析から始める3つのステップ

ステップ1: 内部環境の棚卸し まず自社の強みや独自性を徹底的に洗い出します。創業の想い、培ってきた技術、顧客から評価されているポイントなど、あらゆる角度から自社を見つめ直します。

ステップ2: 外部環境の把握 市場トレンド、競合他社の動向、顧客ニーズの変化を分析します。自社が提供できる独自の価値は何かを、相対的な視点から明確にしていきます。

ステップ3: ステークホルダーの声を聞く 経営陣だけでなく、現場の社員、既存顧客、パートナー企業など、多様な関係者の意見を収集します。彼らが感じている自社の価値や期待を把握することで、より実態に即したステートメントが生まれます。

2-2. 言語化のテクニック

分析結果を効果的なステートメントに落とし込むには、以下のポイントを意識します。

シンプルさを追求する 専門用語や業界用語は避け、中学生でも理解できる平易な言葉を選びます。例えば「革新的なソリューションを提供」より「新しい答えを見つける」の方が伝わりやすくなります。

感情に訴える要素を含める 論理的な説明だけでなく、読む人の心を動かす要素を入れます。「なぜそれが大切なのか」という情熱や想いを込めることで、記憶に残るステートメントになります。

具体性と普遍性のバランス 自社らしさを表現しつつ、多くの人が共感できる普遍的な価値観も盛り込みます。このバランスが、独自性と共感性を両立させます。

 

3. 成功するステートメントの3つの条件

3-1. 明確性 – 誰もが理解できる

効果的なステートメントは、読んだ瞬間に企業の方向性が理解できます。抽象的な表現や曖昧な言い回しは避け、具体的なイメージが湧く言葉を選びましょう。

弊社が支援したラソワレディースクリニックでは、「絹(フランス語でラソワ)」という言葉で、女性の繊細な悩みを優しく包み込むというコンセプトを表現しました。このように、一つの象徴的な言葉で全体のイメージを伝えることも有効です。

3-2. 独自性 – 他社と差別化できる

「顧客第一」「品質重視」といった、どの企業でも言えるような内容では意味がありません。自社ならではの視点や、独特の表現方法を見つけることが重要です。

競合分析を通じて、業界の常識や既存のステートメントのパターンを把握し、あえて違う角度からアプローチすることで、独自性のあるステートメントが生まれます。

3-3. 実現可能性 – 行動に移せる

理想論に終わらず、実際の企業活動で実践できる内容であることが不可欠です。高すぎる理想は、かえって社員のモチベーションを下げ、顧客の信頼を失う原因になります。

現在の企業の実力と、目指すべき姿のギャップを認識した上で、段階的に実現可能な内容にすることが大切です。

4. ステートメントの実践的な活用方法

4-1. 社内浸透のための具体的施策

ステートメントを「飾り」で終わらせないためには、計画的な社内浸透が必要です。

朝礼での唱和より、対話を重視 形式的な唱和ではなく、ステートメントについて社員同士が語り合う機会を設けます。「このステートメントを実現するために、自分の仕事でできることは?」といった問いかけから始めると効果的です。

評価制度への組み込み 人事評価の項目にステートメントに基づいた行動指標を設定します。これにより、日常業務とステートメントの関連性が明確になります。

成功事例の共有 ステートメントに沿った行動で成果を上げた事例を定期的に共有します。抽象的な言葉が、具体的な行動として可視化されることで、理解が深まります。

4-2. 対外的な発信での活用

一貫したメッセージング ウェブサイト、パンフレット、プレスリリースなど、あらゆる対外発信でステートメントを基軸にしたメッセージを展開します。

弊社が制作を担当した各企業のブランディングでも、ステートメントから派生したキーメッセージを、様々なタッチポイントで一貫して発信することで、ブランドイメージの定着を図っています。

ストーリーテリングの活用 ステートメントが生まれた背景や、それを体現するエピソードを積極的に発信します。単なる宣言文ではなく、生きた物語として伝えることで、共感を生みやすくなります。

5. 定期的な見直しと進化

5-1. 見直しのタイミング

ステートメントは「一度作ったら終わり」ではありません。以下のタイミングで見直しを検討しましょう。

  • 事業環境の大きな変化(3〜5年ごと)
  • 経営体制の変更
  • 新規事業への進出や事業撤退
  • 顧客層の大幅な変化

5-2. 進化させる際の注意点

根本的な価値観は維持しつつ、表現方法や重点の置き方を時代に合わせて調整します。急激な変更は混乱を招くため、段階的な進化を心がけることが大切です。

まとめ

効果的なブランドステートメントは、企業の羅針盤として機能し、社内外のステークホルダーとの強い絆を築く基盤となります。作成プロセスでは、徹底的な現状分析と多様な視点の取り入れが重要であり、完成後は計画的な浸透施策と定期的な見直しが欠かせません。

ステートメントは、企業の「魂」を言語化したものです。それゆえ、作成には時間と労力がかかりますが、その投資は必ず企業の成長という形で返ってきます。自社の存在意義を見つめ直し、未来への道筋を示すステートメントづくりに、ぜひ取り組んでみてください。

ブランディングのご相談や、より詳しい事例については、弊社の制作実績をご覧いただくか、お気軽にお問い合わせください。

 

ブランドステートメントFAQ

よくある質問(FAQ)

ブランドステートメントはキャッチコピーやスローガンとどう違うのですか?

ブランドステートメントは企業の存在意義や根本的な価値観を表現する宣言文で、より本質的で長期的なものです。一方、キャッチコピーやスローガンは特定のキャンペーンや商品に対する短期的なメッセージが中心となります。

ステートメントは「なぜその企業が存在するのか」という根本的な問いに答えるもので、社内外すべての活動の指針となります。キャッチコピーはステートメントから派生する表現の一つと考えると良いでしょう。

中小企業でもブランドステートメントは必要でしょうか?

むしろ中小企業こそブランドステートメントが重要です。大手企業との差別化を図るには、自社の独自性や存在意義を明確にすることが不可欠だからです。

中小企業の強みは「顔の見える関係性」や「きめ細やかなサービス」など、大企業では表現しにくい価値にあります。これらを言語化し、一貫して発信することで、規模の不利を覆すブランド力を構築できます。実際に弊社がご支援した中小企業様でも、明確なステートメントにより受注単価の向上や優秀な人材の獲得に成功した事例が多数あります。

ステートメント作成にはどのくらいの期間がかかりますか?

企業規模や組織の複雑さにもよりますが、一般的には3〜6ヶ月程度を要します。これは単に文章を作るだけでなく、企業の本質を深く掘り下げ、関係者の合意を形成するプロセスが含まれるためです。

弊社では「徹底的な対話による本質の探求」を重視しており、経営陣へのインタビュー、社員ワークショップ、顧客ヒアリングなどを段階的に実施します。急いで作ったステートメントは表面的になりがちなので、じっくりと時間をかけることが成功の鍵です。

ステートメントの効果測定はどのように行えばよいでしょうか?

ブランドステートメントの効果は定量的・定性的な両面から測定します。定量的には、ブランド認知度調査、顧客満足度スコア、従業員エンゲージメント調査、採用応募数の変化などを継続的に測定します。

定性的には、顧客からの声の質的変化、メディアでの取り上げられ方、社員の発言内容の変化などを観察します。重要なのは、ステートメント策定前にベースラインを設定し、一定期間後に比較することです。通常、本格的な効果を実感するには1〜2年程度の期間が必要です。

既存のステートメントを変更する際の注意点はありますか?

既存ステートメントの変更は、慎重なアプローチが必要です。まず、現在のステートメントがどの程度社内外に浸透しているかを評価し、変更の必要性と影響度を分析します。

変更する場合は、根本的な価値観は維持しつつ、表現方法や重点の置き方を調整することが重要です。急激な変更は混乱を招くため、段階的な移行計画を立て、十分な説明と浸透期間を設けることが成功の鍵となります。また、変更の背景や意図を社員に丁寧に説明し、理解と協力を得ることが不可欠です。

多角化企業や複数事業を展開する企業では、統一ステートメントと事業別ステートメントのどちらが効果的でしょうか?

これは企業のポートフォリオ戦略によって決まる重要な選択です。基本的には「コーポレートレベルの統一ステートメント」を軸に、各事業の「サブステートメント」を設定するハイブリッド型が効果的です。

統一ステートメントは企業全体の存在意義や価値観を表現し、採用や投資家向けコミュニケーションで活用します。事業別ステートメントは、それぞれの市場特性や顧客ニーズに合わせて統一ステートメントを具体化したものとして位置づけます。弊社では、まず企業の事業ポートフォリオと戦略を分析し、最適なステートメント構造をご提案しています。

橘 啓介

橘 啓介

代表取締役  クリエイティブディレクター

1980年生まれ、東京都出身。2009年にザ・カンパニーを創業。 好きな食べ物:もずく 好きな果物:スイカと梨 好きな薬味:ミョウガとすだち ハマっている漫画:望郷太郎

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