マーケティング環境が厳しさを増す中、広告と宣伝を別々に考える時代は終わりました。前回の記事では、広告と宣伝の基本的な違いや、それぞれを効果的に活用するためのポイントについて解説しましたが、今回は、広告と宣伝を巧みに組み合わせることで大きな成功を収めた企業の事例を紹介し、その成功要因を分析します。マーケティング戦略の立案に役立つヒントが見つかるかもしれません。
Appleの最大の武器は**「情報の希少性」**です。新製品発表前から始まる情報統制により、憶測と期待が自然発生的にSNSで拡散。発表会当日は世界中のメディアが同時報道し、莫大な広告換算価値の露出を獲得します。
3段階の展開戦略:
Red Bullは売上の大きな割合をマーケティングに投資。しかし、商品広告は限定的で、大部分は**「Red Bull Media House」**による独自コンテンツ制作に充てられます。
象徴的事例:ストラトス・プロジェクト
UNIQLOは定期的に著名デザイナーとのコラボを発表。各コラボで大量のメディア記事化を実現し、年間を通じて話題が途切れない仕組みを構築しています。
統合展開の流れ:
星野リゾートは非常に多くのメディア露出を獲得。その秘訣は、各施設に**「日本の文化を現代に蘇らせる」**という明確なストーリーを持たせ、記者が記事にしやすい形で情報提供することです。
メディアフレンドリーな情報設計:
NIKEの広告キャンペーンは、しばしば社会的議論を引き起こします。コリン・キャパニック起用の「Just Do It」キャンペーンは、初動で株価が下落したものの、最終的に売上の大幅な増加を実現しました。
議論が生む増幅効果:
重点施策:広告中心、宣伝で補完
重点施策:広告と宣伝のバランス型
重点施策:宣伝中心、広告は限定的
弊社が支援したセイバン様の大人向けバッグブランド「MONOLITH」立ち上げでは、**「子供向けから大人向けへ」**という企業変革ストーリーを軸に統合戦略を展開しました。
実施施策:
成果:
すべての施策の根底に、ぶれない物語が存在。それが広告のクリエイティブにも、PRのメッセージにも反映されています。
一過性の関係ではなく、長期的パートナーシップを構築。情報提供の質と頻度で信頼を積み重ねます。
市場の関心、競合の動き、社会的トレンドを読み、最適なタイミングで施策を投下。偶然ではなく必然の話題化を実現します。
オンラインでの拡散とオフラインでの体験をシームレスに連携。どちらか一方ではなく、両輪で推進します。
広告と宣伝を「使い分ける」のではなく「掛け合わせる」ことで、相乗効果を生み出せます。重要なのは以下の3点です。
1. 自社の強みを活かした独自ストーリーの構築
2. 規模と成長段階に応じた最適な施策配分
3. PDCAを回しながらの継続的な改善
成功企業の事例は、そのまま真似るのではなく、自社の文脈に翻訳することが重要です。まずは自社のブランドストーリーを明確化し、それを軸に広告と宣伝の統合戦略を設計することから始めましょう。
A. もちろん応用可能です。重要なのは「規模」ではなく「原理」を理解すること。例えばAppleの情報統制戦略は、中小企業なら「新商品の情報を段階的にSNSで公開」という形で実践できます。Red Bullのコンテンツ戦略も、YouTubeやTikTokで独自コンテンツを制作することで再現可能。予算規模に応じて手法をスケールダウンし、自社の強みと組み合わせることが成功の鍵です。
A. コラボ以外にも話題創出の方法は多数あります。①「業界初」「地域初」などの新規性を打ち出す、②社会課題解決への取り組みを発信、③ユーザー参加型キャンペーンの実施、④季節イベントや記念日との連動企画、⑤従業員や顧客のストーリーを発信など。弊社の経験では、「顧客の成功事例」を丁寧に取材・発信することで、コラボ以上の話題性を生み出せることもあります。
A. 「議論を呼ぶ」と「炎上する」の境界線は、「建設的な対話の余地があるか」です。NIKEのように社会的価値観を提示する場合は賛否両論が前提ですが、誠実な姿勢と一貫性があれば支持を得られます。避けるべきは、①特定の個人・団体への攻撃、②事実と異なる情報、③差別的表現、④約束を守れない過大な宣伝。事前に多様な視点でチェックし、批判への対応方針を準備しておくことが重要です。
A. 統合戦略では複合的な指標設定が必要です。短期指標として、①メディア露出の広告換算値、②SNSのエンゲージメント率、③Webサイトの流入増加率、④売上への直接貢献度を測定。長期指標として、①ブランド認知度の変化、②顧客ロイヤルティスコア、③ブランド資産価値の向上を追跡。重要なのは、施策ごとの個別評価ではなく、全体での相乗効果を評価することです。四半期ごとの定点観測をお勧めします。
A. 信頼関係の構築には最低6ヶ月〜1年が必要です。まず業界専門メディアの記者をリストアップし、①定期的な情報提供(月1回程度)、②記者向け勉強会の開催、③取材協力への迅速な対応、④独占情報の優先提供などを継続的に実施。SNSでの記者のフォロー・交流も有効です。重要なのは「売り込み」ではなく「価値ある情報源」として認識されること。記者の締切や関心事を理解し、Win-Winの関係を目指しましょう。
A. どんな企業にも必ずストーリーは存在します。見つけ方のポイントは、①創業の原体験や理念を深掘りする、②顧客が自社を選ぶ「本当の理由」を探る、③競合にはない独自の強みや哲学を言語化、④社会に提供している価値を再定義、⑤従業員が誇りに思うポイントを収集。弊社では「ブランド発掘ワークショップ」を通じて、埋もれていた魅力を可視化するお手伝いをしています。外部の視点を入れることで、新たな発見があることも多いです。
プロダクションマネージャー
映像会社を経て、ザ・カンパニーに入社。ウェブ、グラフィック、映像、アプリなどのクリエイティブ制作進行を担当。