企業のウェブサイト、SNS、パンフレット、これらすべてがバラバラな印象を与えていませんか。実は、この「統一感の欠如」こそが、多くの企業がブランディングで躓く最大の要因なのです。
トンマナ(トーン&マナー)は、ブランドや企業のメッセージを効果的に伝えるための基盤となる概念です。単なるデザインルールではなく、企業の本質的な「らしさ」を可視化し、すべてのタッチポイントで一貫した体験を提供するための戦略的フレームワークとして機能します。
本記事では、株式会社ザ・カンパニーが数多くのブランディングプロジェクトで培った知見をもとに、トンマナを活用してブランド価値を最大化する具体的な方法を解説します。
トンマナは「トーン(Tone)」と「マナー(Manner)」を組み合わせた概念です。トーンは、ブランドが発信するメッセージの「調子」や「雰囲気」を指し、色彩、明暗、文体、言葉遣いなど、感覚的な要素を含みます。一方、マナーは、メッセージを伝える際の「態度」や「方法」を意味し、ターゲットへの接し方や表現スタイルを決定づけます。
この2つの要素が適切に組み合わさることで、ブランドは独自の個性を確立し、ターゲットとの強固な関係を構築できるのです。
デジタルマーケティングの進化により、企業と顧客の接点は飛躍的に増加しました。ウェブサイト、各種SNS、動画プラットフォーム、オフライン広告など、多様なチャネルで一貫したブランド体験を提供することが、これまで以上に重要になっています。
実際、マッキンゼー・アンド・カンパニーの調査によると、ブランドの一貫性を保つことで、企業の収益は平均して23%向上することが報告されています。 (McKinsey & Company, “The Business Value of Design”, 2018年 )
効果的なトンマナ設計の第一歩は、企業やサービスの本質的な「らしさ」を明確化することです。ザ・カンパニーでは、徹底的な対話を通じて、クライアント企業の持つ独自の価値や理念を引き出します。
例えば、株式会社セイバンのバッグブランド「MONOLITH」のプロジェクトでは、ランドセル製造で培った技術力と品質へのこだわりを、大人向けバッグの新しい価値として再定義しました。マーケティング調査からペルソナ設定、ブランドの性格作りまで、上流から下流まですべてを一貫して設計することで、「機能性とデザイン性を兼ね備えた究極のバッグ」というブランドポジションを確立しました。
トンマナは、伝えたい相手によって最適な形が変わります。ターゲットオーディエンスの年齢、価値観、ライフスタイル、情報接触習慣などを詳細に分析し、共感を生むトーンとマナーを設定することが不可欠です。
Z世代向けのブランディングでは、カジュアルで親しみやすいトーンが効果的である一方、BtoB企業の経営層向けには、信頼性と専門性を感じさせるフォーマルなアプローチが求められます。この違いを理解し、適切に使い分けることが、効果的なコミュニケーションの鍵となります。
カラーパレット、タイポグラフィ、写真スタイル、イラストレーション、レイアウトルールなど、ビジュアル要素を体系的に整理します。これらの要素は、ブランドの個性を視覚的に表現する重要な役割を担います。
日蓮宗のグローバルブランディングプロジェクトでは、「様式美」と「内容美」の2軸で日蓮宗らしさを現代的に表現し、グローバルロゴとキャッチコピー「With You For All」を開発しました。伝統的な価値観を尊重しながら、現代的な表現手法を取り入れることで、幅広い層に訴求するビジュアルアイデンティティを構築しています。
ウェブサイトやSNSでトンマナを効果的に活用するためには、プラットフォームごとの特性を理解した上で、一貫性を保ちながら最適化することが重要です。
ウェブサイトの最適化 サイト全体で統一されたカラースキーム、フォント、レイアウトを採用することで、ユーザーはどのページにいても同じブランドだと認識できます。ナビゲーション構造やCTAボタンのデザインも、トンマナに沿って設計することで、ユーザー体験の向上とコンバージョン率の改善を実現できます。
SNSでの一貫性確保 InstagramやTwitter、LinkedInなど、各プラットフォームの特性に応じてコンテンツを最適化しながらも、ブランドの核となるトンマナは維持します。例えば、Instagramではビジュアル重視の投稿を、Twitterでは短くインパクトのあるメッセージを展開しつつ、すべてにおいて一貫したブランドパーソナリティを表現します。
ブログ記事、動画コンテンツ、ホワイトペーパーなど、すべてのコンテンツでトンマナを意識することで、ブランドの専門性と信頼性を効果的に伝えることができます。
文章のトーンは、ターゲット読者の期待に応えながら、ブランドの個性を表現するバランスが重要です。専門的な内容を扱う場合でも、読みやすく親しみやすい文体を心がけることで、読者とのエンゲージメントを高められます。
トンマナは外部向けのコミュニケーションだけでなく、社内コミュニケーションにおいても重要な役割を果たします。従業員全員がブランドの価値観を理解し、日々の業務で実践することで、真に一貫したブランド体験を提供できます。
定期的な社内トレーニングやブランドガイドラインの共有、成功事例の紹介などを通じて、トンマナの重要性を組織全体に浸透させることが必要です。
一貫したトンマナを維持することで、ブランドの認知度は確実に向上します。視覚的な統一感により、顧客は瞬時にブランドを認識できるようになり、記憶に残りやすくなります。
東急プラザ銀座のプロジェクトでは、ブリティッシュガーデンというコンセプトのもと、空間デザインからイベントコンテンツまで一貫したトンマナを展開しました。その結果、前年同月比で売上が223%という驚異的な成果を達成しています。
トンマナを通じて一貫した体験を提供することで、顧客との信頼関係が深まります。ブランドへの愛着や帰属意識が高まり、長期的な顧客関係の構築につながります。
独自のトンマナを確立することで、競合他社との明確な差別化を実現できます。市場において独自のポジションを確立し、価格競争に巻き込まれない強固なブランドを構築できるのです。
トンマナは、ブランドの本質を可視化し、すべてのタッチポイントで一貫した体験を提供するための戦略的フレームワークです。単なるデザインルールではなく、企業の競争力を高める重要な経営資源として捉える必要があります。
効果的なトンマナ戦略を実装するためには、以下の3つのステップが重要です。
株式会社ザ・カンパニーでは、これらのプロセスを通じて、クライアント企業の「あるべき姿」を追求し、心と未来に残る揺るぎないブランディングを実現しています。
トンマナ戦略の導入や改善をご検討の際は、ぜひ専門家への相談をご検討ください。適切なトンマナ設計により、ブランド価値の最大化と持続的な成長を実現できるはずです。
A. プロジェクトの規模により異なりますが、基本的なトンマナ設計には通常2〜3ヶ月程度かかります。初期の調査・分析フェーズに3〜4週間、コンセプト開発に3〜4週間、ビジュアルアイデンティティの制作に4〜6週間が目安です。ただし、組織の規模や既存ブランドの状況、展開チャネルの数などにより期間は前後します。段階的に導入することで、早い段階から部分的な効果を実感することも可能です。
A. まず現状のブランド資産を棚卸しし、何を残して何を変えるべきかを明確にします。顧客調査や競合分析を通じて、ブランドの強みと改善点を特定した上で、段階的にトンマナを更新していきます。急激な変更は顧客の混乱を招く可能性があるため、コアとなる要素は維持しながら、徐々に新しい要素を導入していくアプローチが効果的です。重要なのは、変更の理由と方向性を社内外に明確に伝えることです。
A. むしろ中小企業こそ、トンマナ設計による差別化が重要です。限られたリソースで最大の効果を得るためには、一貫したブランド体験の提供が不可欠です。大企業と比べて意思決定が速く、組織全体への浸透も図りやすいという利点もあります。最初から完璧を目指す必要はなく、まずは基本的なカラーパレットやロゴの使用ルールから始めて、段階的に充実させていくことをお勧めします。
A. トンマナは、ブランドが持つべき「雰囲気」や「態度」という概念的な方向性を示すものです。一方、ブランドガイドラインは、トンマナを実現するための具体的なルールブックです。トンマナが「親しみやすく専門的」という方向性を示すのに対し、ガイドラインではそれを実現するための具体的なフォント、色コード、文章のトーン、写真の撮影スタイルなどを詳細に規定します。トンマナは戦略、ガイドラインは戦術と捉えると理解しやすいでしょう。
A. デジタルとオフラインでは、表現できる要素や制約が異なるため、完全に同じ表現は困難です。重要なのは、表層的な統一ではなく、ブランドの核となる価値観や印象を一貫させることです。例えば、ウェブサイトのインタラクティブな要素を印刷物で表現する場合は、動きを想起させるデザイン要素を取り入れます。また、印刷物の質感や高級感をデジタルで表現する際は、適切な画像処理やタイポグラフィで補完します。各メディアの特性を活かしながら、全体として統一感のある体験を設計することが重要です。
A. トンマナの効果は複数の指標で測定します。定量的指標としては、ブランド認知度調査、ウェブサイトの直帰率やエンゲージメント率、SNSのリーチ数やエンゲージメント率、売上や問い合わせ数の変化などがあります。定性的指標としては、顧客アンケートによるブランドイメージ評価、従業員満足度調査、メディア掲載時の論調分析などが有効です。これらを導入前後で比較し、継続的にモニタリングすることで、トンマナの効果を客観的に評価できます。
アートディレクター
新潟県出身。印刷会社、デザイン事務所、広告代理店を経てTCに参加。人の心に響くコミュニケーションデザインを心がけています。