
ブランドパーソナリティとは、ブランドを人に例えたときの「性格」や「人格」を指します。明確に定義し一貫して体現することで、記憶への定着、豊かな連想、競合との差別化、顧客との感情的な絆、あらゆる接点での一貫した体験を生み出します。本記事では、心理学的根拠に基づく5つの効果、実践的な構築ステップ、そして対話を通じて本質を引き出すザ・カンパニー独自のアプローチを解説します。
あなたのブランドは、顧客からどんな”個性”を持った存在として認識されているでしょうか?
この”個性”こそが、ブランディングの世界で「ブランドパーソナリティ」と呼ばれるものです。
ブランドパーソナリティを適切に設計・運用すれば、顧客の感情移入を劇的に高めることができます。その結果、ブランドに強い愛着を抱くファンが増え、「このブランドでなければ」という指名買いを生み出すことが可能になります。
マーケティングでよく知られる「80/20の法則(パレートの法則)」によると、売上の80%は上位20%の顧客から生み出されています。この20%こそが、ブランドに深い愛着を持つ「ロイヤルファン」です。
では、ロイヤルファンはどのようにして生まれるのでしょうか?
その鍵を握るのが、ブランドパーソナリティです。顧客は単なる機能や価格ではなく、ブランドの「個性」や「価値観」に共感することで、長期的なファンへと成長していきます。
ブランドパーソナリティとは、ブランドを人間に例えたときの「性格」や「人格」を指します。どんな価値観を掲げ、どんな態度で社会と接し、どんな振る舞いを大切にしているのか――これらの総体がブランドの「人格」となります。
たとえば、同じコーヒーショップでも、スターバックスには「お洒落」「カジュアル」「フレンドリー」といったパーソナリティがあり、老舗の喫茶店には「落ち着き」「伝統」「職人気質」といった異なるパーソナリティがあります。
混同されやすい概念として「ブランドアイデンティティ」がありますが、両者には明確な違いがあります。

ブランドが「誰であるか」を示します。人間的な特性や性格、価値観に関わる概念です。
ブランドが「どのように見え、どのように感じられるか」を表現します。ロゴ、カラー、フォント、スローガンなど、視覚的・言語的な要素を含みます。
つまり、ブランドパーソナリティは「内面」、ブランドアイデンティティは「外見」と考えるとわかりやすいでしょう。両者は密接に連携し、一貫したブランド体験を形成します。
ブランドパーソナリティはBtoCだけのものではありません。BtoBにおいても、購買の意思決定に大きな影響を与えます。
「変化を恐れずに挑戦している会社と、一緒に変革を起こしたい」 「誠実で現場に寄り添う姿勢が、自社のカルチャーと重なる」 「社会課題に真摯に向き合っている企業だから、共創できる気がする」
このように、企業間取引においても、パーソナリティへの共感が取引先選定の重要な判断基準となっています。
ブランドパーソナリティは、単なる「雰囲気づくり」ではありません。適切に設計・運用されれば、科学的に証明された複数の効果を同時に生み出す戦略的な武器となります。
心理学者ハミルトンの有名な実験があります。被験者に、ある男性の行動を示す15の短文(「夕刊を読んだ」「部屋を掃除した」など)を見せ、2つのグループに異なる指示を出しました。
結果、Bグループの方が多くの文章を思い出すことができました。なぜなら、Bグループは個々の情報を「几帳面な人」という人格に結びつけて記憶したため、その印象を手がかりに芋づる式に記憶をたどれたからです。
この原理をブランディングに応用すると、機能やデザイン、メッセージなどバラバラな情報を「ブランドパーソナリティ」という一つの人格にまとめて覚えてもらう方が、長く記憶に残るということになります。ブランド名を連呼するよりも、人格を感じさせる一貫したパーソナリティ設計の方が、知名度向上に効果的なのです。
ある女性コンサルタントのプロフィールを想像してください。
「ハーバード大学卒、外資系コンサルで20代にプリンシパル昇進、英語はネイティブ並み、29歳、モデルのような美貌、年収2,000万円」
多くの人は「近寄りがたい」「冷たそう」という印象を抱くかもしれません。では、次の一文を加えるとどうでしょうか?
「彼女は純粋で素朴な性格。安くておいしいラーメン屋に行くと、子どものように無邪気に喜ぶ」
一気に親しみが湧いたのではないでしょうか。
この例で言えば、前半の5つの文章がブランドの「機能・性能」、最後の「純粋で素朴な性格」がブランドパーソナリティにあたります。機能や性能だけでは競合と似通いやすくても、パーソナリティを加えるだけで、連想は豊かに広がるのです。
市場が成熟し、製品開発のスピードが加速する中で、機能や性能だけでの差別化はますます困難になっています。
たとえば、日本のスマートフォンが似た印象で受け止められがちな中、iPhoneが圧倒的な存在感を放っているのは、Appleがブランドパーソナリティを巧みに管理しているからです。「革新的」「クリエイティブ」「シンプル」といった明確なパーソナリティが、機能比較表には載らない差別化を実現しています。
心理学者マーロンが提唱した「類似性の法則」によると、人は自分と似た価値観や性格を持つ相手に好意を抱きます。これはブランドにも当てはまります。
ハーレーダビッドソンを例に取りましょう。「男らしさ」「自由」「独立心」「野性味」というブランドパーソナリティは、その愛好者のイメージとほぼ一致します。冷静に見れば、大型で燃費が悪く、置き場所にも困るバイクかもしれません。それでも熱狂的なファンがロゴを刺青したり、ヘルメットに貼ったりするのは、自分と似た価値観を持つブランドだと感じているからです。
米国の調査会社Motistaの研究によると、ブランドと感情的なつながりを持つ顧客は、そうでない顧客と比較して生涯価値(LTV)が306%高く、ブランドとの関係も平均5.1年と長期にわたります(感情的つながりのない顧客は平均3.4年)。さらに、そのブランドを他者に推奨する確率も71%高いことが明らかになっています。
ブランドパーソナリティは、すべてのブランド体験に一貫性と統一感をもたらす役割も果たします。
スターバックスが好例です。「お洒落」「カジュアル」「落ち着き」「フレンドリー」といったパーソナリティが、コーヒーの味、店舗デザイン、接客、Webサイトのトーンにまで統一して反映されています。だからこそ、どの店舗でも「スタバらしい」体験が得られるのです。
顧客接点が多様化する今、どのタッチポイントでも同じブランドらしさを感じられることは、大きな競争優位性となります。
では、実際にブランドパーソナリティをどのように構築すればよいのでしょうか。以下に、実践的な5つのステップを紹介します。

まずは、現在のブランドがどのように認識されているかを客観的に把握します。社内インタビュー、顧客アンケート、SNS分析などを通じて、「今、どんなパーソナリティとして見られているか」を明らかにしましょう。
次に、ブランドが目指すべきパーソナリティを定義します。「誠実」「革新的」「親しみやすい」「知的」など、形容詞で表現することから始めると整理しやすくなります。このとき、競合との差別化ポイントも意識することが重要です。
抽象的な形容詞だけでは、組織全体で共有することが難しくなります。そこで、「もしこのブランドが人間だったら、どんな人物か」を具体的に描きます。年齢、職業、趣味、話し方、服装など、詳細なペルソナを設定することで、社内での認識を統一できます。
定義したパーソナリティを、実際のコミュニケーションに反映します。トーン&マナー、ビジュアルスタイル、キーメッセージなど、あらゆる表現要素にパーソナリティを落とし込みます。
ブランドパーソナリティは一度決めたら終わりではありません。市場環境や顧客ニーズの変化に応じて、一貫性を保ちながらも適切に進化させていく必要があります。定期的な効果測定と見直しが不可欠です。
私たちザ・カンパニーは、ブランドパーソナリティの構築において「対話」を最も重視しています。
なぜなら、ブランドの本質的な魅力は、外から持ち込むものではなく、すでに企業の中に存在しているからです。私たちの役割は、その本質を対話を通じて「引き出す」ことにあります。
私たちがクライアントとの対話で用いる代表的な質問をご紹介します。
これらの質問を通じて、表面的な特徴ではなく、ブランドの「核」となるパーソナリティを発見していきます。
ブランディングは一度の施策では完結しません。本質的なブランド価値を継続的に育て、市場環境の変化に合わせて進化させていくことが重要です。
ザ・カンパニーでは、月額制のブランドケアプログラム「Sync Tank」を提供しています。定期的な対話と診断を通じて、ブランドパーソナリティの一貫性を保ちながら、時代に合わせた最適化を支援します。
創立55年のクレーン業界パイオニア企業である大京建機株式会社。各種制作物の個別制作により生じていたブランド統一性の欠如が課題でした。
私たちは経営陣・現場社員との徹底した対話を重ね、企業の核となる価値観を再定義。「人を、世界を、拓いていく。」というタグラインとともに、全コミュニケーションツールに一貫したパーソナリティを反映させた戦略的リブランディングを実施しました。
成果:前年比売上125%UPを達成
創業50年超の工業用電熱ヒーター製造企業であるセイワ電熱株式会社。本社・工場移転を機とした包括的な企業イメージ刷新のご相談をいただきました。
対話を通じて見出したのは、「継承と革新性の両立」という同社ならではの価値観。半世紀にわたり蓄積された技術力と信頼性を現代的に表現するパーソナリティを設計し、ロゴ、Webサイト、パンフレットを一新しました。
成果:年間問い合わせ数800件→1,200件(1.5倍)に増加
世界的な成功事例としてスターバックスが挙げられます。
「お洒落」「カジュアル」「落ち着き」「フレンドリー」「正統派」というブランドパーソナリティを、コーヒーだけでなく、店舗デザイン、接客、Webサイト、さらにはカップのデザインに至るまで一貫して表現しています。
その結果、世界中のどの店舗でも「スタバらしい」体験が提供され、単なるコーヒーショップを超えた「第三の場所(サードプレイス)」としてのポジションを確立しています。
ブランドパーソナリティは、単なるイメージづくりではありません。科学的根拠に基づいた戦略的な武器であり、明確に定義し一貫して体現することで、以下の効果を生み出します。
どんな価値観を持ち、どんな言葉や態度で社会と関わるのか――その答えこそが、あなたのブランドを唯一無二の存在にし、長く愛され続けるための原動力となるのです。
ブランドの本質的な魅力は、すでにあなたの会社の中にあります。私たちザ・カンパニーは、対話を通じてその魅力を引き出し、揺るぎないブランドパーソナリティの構築をサポートします。
A. 基本的な定義は2〜3ヶ月程度で可能ですが、組織全体への浸透と効果測定を含めると6ヶ月〜1年程度を見込むことをおすすめします。短期間で形だけ整えるよりも、対話を重ねて本質的な価値観を言語化するプロセスが重要です。
A. 自社だけでも構築は可能ですが、社内の「当たり前」を客観視することは難しいものです。外部の視点を入れることで、自分たちでは気づかなかった強みや魅力を発見できるケースが多くあります。特に対話を通じて本質を引き出すプロセスでは、第三者の存在が大きな効果を発揮します。
A. まず経営層と現場キーパーソンを巻き込んだ策定プロセスが重要です。その後、社内向けのブランドブック作成、ワークショップの実施、日常業務での判断基準としての活用など、段階的に浸透を図ります。一度の説明で終わらせず、継続的に触れる機会を設けることがポイントです。
A. ブランド認知度調査、顧客満足度調査、NPS(推奨度)、SNSでの言及分析などで測定できます。また、問い合わせ数や売上の変化、採用応募数の増減など、ビジネス指標との相関も重要な判断材料となります。
A. むしろ小規模企業やスタートアップにこそ必要です。大企業のように広告予算をかけられない分、明確なパーソナリティで「選ばれる理由」を作ることが重要になります。創業期から一貫したパーソナリティを持つことで、成長後もブレない軸を維持できます。
A. 変更は可能ですが、急激な変化は顧客の混乱を招く可能性があります。市場環境や事業戦略の変化に応じて、核となる価値観は守りながら表現方法を進化させていくアプローチが効果的です。定期的な見直しと微調整を続けることで、時代に合った形で一貫性を保てます。
※1 Motista, “New Retail Study Shows Marketers Under-Leverage Emotional Connection” (2018年9月27日)
※2 Motista, “Leveraging the Value of Emotional Connection for Retailers” (2018年)
※3 Harvard Business Review, “The New Science of Customer Emotions” (2015年11月)
※4 WinSavvy, “The Power of Emotional Marketing: Key Statistics for 2024” (2024年10月13日)

取締役 プロデューサー
2016年よりプロデューサーとして課題解決型のブランディング施策を多数手掛ける。手法にとらわれないコミュニケーション設計を得意とする。