「私たちの商品やサービスの良さを、もっと多くの人に知ってもらい、好きになって欲しい」
これは、ザ・カンパニーがお客様から実際にいただく、最も多いご相談内容です。でもなぜ、多くの企業がこのような課題を抱えているのでしょうか。
実は、商品やサービスの機能的価値だけを訴求しても、消費者の心には響きにくいという現実があります。現代の消費者は、ブランドに対して機能性以上の「何か」を求めているのです。その「何か」こそが、ブランドパーソナリティなのです。
本記事では、ブランドに人間のような「人格」を持たせることで、顧客との深い絆を築く方法を、実践的な5つのステップで解説します。
ブランドパーソナリティとは、ブランドに人間のような性格や特徴を付与し、消費者との感情的なつながりを構築する戦略的アプローチです。この概念は、単なる製品やサービスの集合体ではなく、一貫した「人格」を持つ存在として、ブランドを顧客に認識してもらうことを目的としています。
たとえば、アウトドアブランドのパタゴニア(Patagonia)は「環境意識が高く、冒険心旺盛な人物」というパーソナリティを確立しています。同社は環境保護活動への積極的な取り組みやサステナブルな素材使用を通じて、ブランドの価値観を一貫して表現。この明確なパーソナリティが、自然を愛し環境問題に関心を持つ顧客層との強固な関係性を生み出しています。
ブランドパーソナリティは、ロゴやスローガンといった表層的な要素を超越し、ブランドの価値観、ミッション、ビジョンを体現する存在です。この一貫性こそが、消費者の記憶に残り、愛着を生み出す源泉となります。
現代の消費者行動において、感情的要因が購買決定に与える影響は極めて大きくなっています。Motista社の大規模調査によると、ブランドと感情的につながりを持つ顧客は、単に満足している顧客と比較して、306%高い顧客生涯価値(LTV)を持つことが明らかになりました。また、ブランドとの関係継続期間も5.1年と、満足顧客の3.4年を大きく上回っています。 ( Motista, “New Retail Study Shows Marketers Under-Leverage Emotional Connection” (2018年9月27日) )
顧客がブランドに「温かみ」や「誠実さ」を感じる場合、購買行動は単なる取引を超えた意味を持ちます。これにより、ブランドは「必要な時に選ばれる」存在から、「選びたい」存在へと進化するのです。
同一カテゴリーに無数の競合がひしめく現代市場において、機能面での差別化は困難を極めます。しかし、ブランドパーソナリティを明確にすることで、競合との本質的な差別化が可能になります。
同じアウトドアカテゴリーでも、パタゴニアの「冒険心旺盛」なパーソナリティと、別ブランドの「洗練された静けさ」では、訴求する価値観が全く異なります。消費者は自身の価値観やライフスタイルに合致するブランドを選択するため、機能面が同等でも選ばれるブランドになることができるのです。
一貫したブランドパーソナリティは、消費者の信頼を獲得する最も効果的な手段の一つです。この信頼の積み重ねが、ブランドへの深い愛着を生み出し、リピート購入や口コミでの推奨という行動を引き起こします。実際、Motista社の調査では、感情的につながりのある顧客の71%がブランドを推奨するのに対し、単に満足している顧客では45%にとどまることが報告されています。 (Motista, “Leveraging the Value of Emotional Connection for Retailers” (2018年))
特にファッション業界では、ブランドを自己表現の手段として活用する傾向が顕著です。消費者は「自分らしさ」を表現するツールとして、パーソナリティが明確なブランドを選択するのです。
ブランドパーソナリティがターゲット顧客の価値観や感性と合致するほど、親和性は飛躍的に高まります。
たとえば、多忙なビジネスパーソンをターゲットにしたカフェブランドが「洗練された効率性と、落ち着いた空間の提供」というパーソナリティを持つ場合、顧客にとってそれは単なる飲食店ではなく、短時間でリフレッシュし、生産性を高められる「仕事のパートナー」として認識されます。
ブランドパーソナリティ構築の第一歩は、ブランドの核心にある価値観や目的を明確化することです。ザ・カンパニーでは、徹底的な対話を通じて、企業やサービスの本質的な「らしさ」を見出すプロセスを重視しています。
以下の問いかけを通じて、ブランドの核を探求しましょう:
ITサービス企業であれば、「複雑な技術をシンプルにし、ユーザーがストレスなく利用できる体験を提供する」という価値観が、ブランドパーソナリティの基盤となります。
ターゲット顧客の価値観やニーズを深く理解することは不可欠です。年齢層、職業、趣味嗜好などの基本データに加え、感情的価値や潜在的課題を明確にすることで、より効果的なパーソナリティを構築できます。
Harvard Business Reviewで紹介された事例では、ある大手銀行がミレニアル世代向けに感情的つながりを重視したクレジットカードを導入した結果、その世代の利用率が70%増加し、新規口座開設が40%増加したという成果が報告されています。 ( Harvard Business Review, “The New Science of Customer Emotions” (2015年11月))
ブランドをあたかも人間のように擬人化することで、顧客とのつながりを深める具体的なイメージを創出します。以下の質問を活用してブランドを擬人化してみましょう:
金融サービスのブランドであれば、「信頼感があり、知識が豊富だが親しみやすいベテランアドバイザー」のようなパーソナリティが、顧客に安心感を与えます。
ブランドパーソナリティを顧客に伝える際には、一貫した「話し方」や「コミュニケーションのトーン」の確立が必要です。このトーンは、広告、ウェブサイト、カスタマーサポートなど、あらゆる顧客接点で統一されるべきです。
弊社が手掛けた大京建機株式会社の事例では、創立55年の歴史あるクレーン企業のブランド統一性の欠如という課題に対し、全コミュニケーションツールのトーン統一を実施。結果として売上125%アップを達成しました。
ブランドパーソナリティは視覚的要素にも大きく影響を与えます。ロゴ、カラー、フォント、写真スタイルなどのビジュアル要素は、ブランドの性格を直接伝える重要な手段です。
ビジュアル要素とブランドボイスを組み合わせることで、顧客に一貫した体験を提供し、ブランドへの認識を深めることができます。
顧客の意見やニーズを定期的に収集し、ブランドの方向性と一致しているかを確認します。月次でのアンケート調査や、SNSでの反応分析を通じて、常に顧客の声に耳を傾けることが重要です。
市場の動向や競合ブランドの戦略を把握し、適切に対応することで、ブランドが時代遅れになることを防ぎます。特にZ世代など新しい消費者層の価値観の変化には、敏感に対応する必要があります。WinSavvyの2024年調査によると、感情的なマーケティングキャンペーンは従来型と比較して50%高いROIを実現し、25%の売上増加をもたらすことが報告されています。( WinSavvy, “The Power of Emotional Marketing: Key Statistics for 2024” (2024年10月13日) )
進化を遂げる際にも、ブランドの核となる価値観は決して損なわないよう注意が必要です。顧客が期待するブランド像を保ちながら、時代に合わせた細やかな調整を加えていくことが、長期的な成功につながります。
ブランドパーソナリティは、単なるマーケティング戦略ではありません。ブランドの核となる存在であり、企業の本質的な魅力を引き出す重要な要素です。
一貫性を持ち、ターゲット顧客に響くパーソナリティを構築することで、顧客との感情的なつながりを深め、競争の激しい市場での差別化を実現できます。自社のブランドを擬人化し、あらゆる接点でその「人格」を表現することで、消費者の記憶に残るブランドを作り上げることができるのです。
ザ・カンパニーでは、徹底的な対話と分析を通じて、企業やサービスの本質的な「らしさ」を見出し、効果的な表現と伝達方法を設計しています。ブランドパーソナリティの構築から運用、進化まで、継続的にサポートすることで、お客様のブランド価値向上を実現します。
次のアクション:
貴社のブランドパーソナリティ診断や、具体的な構築方法について、より詳しく知りたい方は、ザ・カンパニーのブランディングサービスをご覧ください。
A. ブランドパーソナリティの構築期間は、企業規模や現状のブランド認知度によって異なりますが、一般的には3〜6ヶ月程度を要します。初期の分析・戦略立案に1〜2ヶ月、ビジュアルアイデンティティの開発に1〜2ヶ月、実装と社内浸透に1〜2ヶ月が目安です。ただし、構築後も継続的な改善と進化が必要なため、長期的な視点でのパートナーシップが重要になります。
A. むしろ中小企業こそブランドパーソナリティが重要です。大企業と比較して予算やリソースが限られる中小企業にとって、明確なブランドパーソナリティは効率的な差別化戦略となります。一貫したパーソナリティを持つことで、限られた予算でも効果的なマーケティングが可能になり、ターゲット顧客との深い関係性を構築できます。
A. ブランドアイデンティティは、ロゴ、カラー、フォントなどの視覚的要素を含む、ブランド全体の統一されたイメージです。一方、ブランドパーソナリティは、ブランドを「人格」として捉え、性格や価値観、行動様式を定義するものです。ブランドアイデンティティが「見た目」だとすれば、ブランドパーソナリティは「性格」に該当します。両者は密接に関連し、統合的に管理することで強力なブランド体験を創出できます。
A. B2B企業においても、ブランドパーソナリティは極めて効果的です。企業間取引においても、最終的な意思決定は人間が行うため、感情的な要素は重要な役割を果たします。「信頼できる専門家」「革新的なパートナー」といったパーソナリティを確立することで、取引先との長期的な関係構築が可能になります。特に、複雑な製品やサービスを扱うB2B企業では、親しみやすいパーソナリティが理解促進にも寄与します。
A. ブランドパーソナリティの効果測定には、定量的指標と定性的指標の両方を活用します。定量的指標としては、ブランド認知度、顧客満足度スコア(NPS)、リピート率、顧客生涯価値(LTV)などがあります。定性的指標としては、ソーシャルリスニングによる感情分析、顧客インタビューでのブランドイメージ調査などが有効です。これらを定期的にモニタリングし、施策の改善につなげることが重要です。
A. ブランドパーソナリティの変更は可能ですが、慎重な計画と段階的な実施が必要です。急激な変更は既存顧客の混乱を招く可能性があるため、市場環境の変化や企業の成長に合わせて徐々に進化させることが推奨されます。リブランディングを行う場合は、変更の理由を明確に伝え、新旧のパーソナリティの橋渡しとなるストーリーを構築することが成功のカギとなります。
取締役 プロデューサー
2016年よりプロデューサーとして課題解決型のブランディング施策を多数手掛ける。手法にとらわれないコミュニケーション設計を得意とする。