
「鼻セレブ」というティッシュをご存知でしょうか。
発売前、この商品は「モイスチャーティシュ」という名前でした。
品質には自信があったものの、売上は伸び悩んでいた。
そこでネピアは、パッケージを全面的に見直しました。
名前を「鼻セレブ」に変え、箱にはふわふわの動物の写真を配置。結果、売上は10倍になりました。
一方、逆の事例もあります。アメリカのトロピカーナは、2009年にパッケージをリニューアルしました。
長年親しまれてきた「ストローが刺さったオレンジ」のイラストを廃止し、シンプルなデザインに変更。
結果、売上は20%減少し、わずか2ヶ月で元のデザインに戻すことになりました。
鼻セレブは、商品の価値である「肌へのやさしさ」を、名前とビジュアルで一貫して伝えました。
トロピカーナは、お客様が「トロピカーナらしい」と感じていた要素を、自ら手放してしまいました。
デザインのセンスではありません。ブランドの価値を活かせたか、捨ててしまったか。
その違いが、売上10倍と売上20%減という結果を分けたのです。
パッケージのリニューアルで成功したブランドには、共通点があります。
それは、「このパッケージで何を伝えるか」が明確だったということです。

コカ・コーラの「くびれボトル」をイメージしてみてください。
あの形は、暗闘の中で触っても、割れた破片を見ても、コカ・コーラだとわかるようにデザインされたと言われています。
実際、コカ・コーラがくびれボトルを前面に押し出したキャンペーンでは、売上が7%増加しました。
伝えていたのは、「正真正銘のコカ・コーラである」という本物感です。
小林製薬の「命の母」は、長年のパッケージを見直し、若年層の獲得に成功しました。
従来の「更年期向け」というイメージから、「女性の健康をサポートする」という価値を前面に出すデザインに変更。
新しいターゲット層に「これは自分のための商品だ」と感じてもらえるパッケージになったのです。
一方、先ほどのトロピカーナは、「新鮮さ」「オレンジそのもの」という、ブランドが長年築いてきた資産を自ら捨ててしまいました。
デザイン自体はモダンで洗練されていましたが、お客様が「トロピカーナらしい」と感じる要素がなくなっていた。
結果、棚の前で「いつものトロピカーナ」を見つけられなくなった人が続出しました。
成功と失敗を分けたのは、デザインのセンスではありません。**「何を伝えるべきかわかっていたか」**です。
ドラッグストアでハンドクリームを選ぶ場面を想像してみてください。
棚には何十種類もの商品が並んでいます。一つひとつ手に取って、成分表示を読んで——そんな買い方をする人がいる一方で、多くの人は、棚をさっと見て、「なんとなく良さそう」と感じたものに手を伸ばします。
パッケージが勝負する時間は、わずか3秒。その一瞬で、「これは自分のための商品だ」と思ってもらえるかどうかが決まります。
この「3秒の勝負」を設計するためのフレームワークが、**「メリコの法則」**です。
「メ」は目立つこと、「リ」は理解できること、「コ」は好感を持てること。この3つを順番に設計することで、選ばれるパッケージを作ることができます。
私たちが手がけた関ファームの「COCO TOMATO」シリーズを例に、それぞれのステップを見ていきましょう。

※詳しくは画像をクリック
どんなに良い商品でも、気づいてもらえなければ存在しないのと同じです。
COCO TOMATO JUICEのボトルを見てください。白いラベルに、細い黒文字で「COCO TOMATO. JUICE」。トマトの写真もイラストもありません。
一見すると「これで目立つのか?」と思うかもしれません。しかし、棚に並んだときのことを想像してみてください。多くのトマトジュースは、赤いラベルに大きな文字、トマトの写真——情報が詰め込まれています。
そこに、余白をたっぷり取った白いラベル。瓶の中の真っ赤なジュースが透けて見える。「なんだろう?」と目が止まります。
目立つとは「派手にする」ことではありません。周りと違う佇まいを作ることです。引き算のデザインが、結果として最も目を引くこともあるのです。
足が止まったら、次は「これは何か」を瞬時に理解してもらう必要があります。
COCO TOMATO JUICEは、ラベルの情報を極限まで絞っています。商品名、産地(東京都清瀬市)、そして「SEKI FARM」のロゴ。それだけです。
しかし、それで十分伝わります。瓶を透かして見える濃厚な赤色が「トマトジュース」であることを示し、シンプルなラベルが「こだわりの農園が作った特別なもの」という印象を与えます。
ここで重要なのは、「何を載せるか」ではなく、「何を載せないか」です。情報を削ぎ落とすことで、本当に伝えたいことだけが残ります。
最後の「コ」は、理屈を超えた「なんか好き」という感覚です。
COCO TOMATOのパッケージには、あたたかみがあります。素朴な瓶の形、ラベルの余白。「丁寧に作られたもの」「誰かの顔が見える商品」という印象が自然と伝わってきます。
これは、ターゲットとなるお客様の価値観と一致しています。大量生産ではなく、作り手の想いが感じられるものを選びたい。そういう人たちの「なんか好き」を引き出すデザインなのです。
好感とは、お客様の価値観や感情とのつながりです。「誰に届けたいか」を明確にすることで、その人たちの心に響くデザインが生まれます。
関ファームの事例を見て、「うちもこういうパッケージを作りたい」と思った方もいるかもしれません。
では、実際にどのような手順で進めればいいのでしょうか。
私たちが普段行っているプロセスを、3つのステップに分けて紹介します。
最初にやるべきことは、デザインを考えることではありません。「このブランドは何者か」を言葉にすることです。
「高品質」「こだわり」「安心」——こうした言葉はどのブランドでも言えてしまいます。
そうではなく、「うちだから言えること」を探す作業が必要です。
関ファームの場合、「トマトが美味しい」は当たり前。
そこから掘り下げて出てきたのが、「トマトそのものの品質で勝負できる自信」でした。
だからこそ、余計な装飾を省いて、トマトそのものを見せるデザインが生まれたのです。
「らしさ」が言葉になったら、次はそれを1つに絞る作業です。
パッケージで伝えられる情報には限りがあります。
あれもこれも載せたくなる気持ちはわかりますが、情報が増えるほど、何も伝わらなくなります。
「このパッケージを見た人に、一言で何を思ってほしいか」
この問いに答えられるまで絞り込む。それがコンセプトになります。
コンセプトが決まったら、ようやくデザインの話になります。
ここで大切なのは、「かっこいいデザイン」を目指さないことです。
目指すのは、「ステップ1と2で決めたことが、ちゃんと伝わるデザイン」です。
色、形、文字、写真、余白——すべての要素が「伝えたいこと」に向かっているか。それを確認しながら形にしていきます。
関ファームの白いラベルは、「オシャレだから白にした」のではありません。
「トマトそのもので勝負する」というコンセプトを伝えるために、余計なものを削った結果、白くなったのです。
パッケージブランディングは、デザインの前に「言葉にする」「絞る」という工程があります。ここを飛ばしてしまうと、見た目は良くても「何を伝えたいかわからない」パッケージができあがってしまいます。
パッケージをリニューアルしたら、当然「効果があったのか」を確認したくなります。
ただ、ここで注意が必要です。売上の増減だけを見ても、パッケージの効果はわかりません。
売上は季節要因、価格、競合の動き、流通の変化など、さまざまな要素に左右されるからです。
では、何を見ればいいのでしょうか。
パッケージの効果を知る一番確実な方法は、買ってくれた人に直接聞くことです。
ECサイトなら購入後アンケートで「この商品を選んだ理由」を聞いてみてください。
選択肢に「パッケージ・見た目」を入れておけば、どれくらいの人がパッケージで選んだかがわかります。
直販や展示会で販売する機会があれば、「なぜこれを手に取りましたか?」と一言聞いてみるだけでも十分です。
流通メインで直接聞く機会がない場合は、SNSやレビューサイトでの言及をチェックしてみてください。
「パッケージがかわいい」「見た目で選んだ」といったコメントがあれば、パッケージが購買に貢献している証拠です。
思わず写真を撮りたくなるパッケージは、SNSで自然に広がります。
InstagramやX(旧Twitter)で商品名を検索し、パッケージが写った投稿がどれくらいあるか、リニューアル前後で比較してみてください。
パッケージは「最初の1回」だけでなく、「また買いたい」にも影響します。
特にギフト需要がある商品では、「もらった人が自分でも買う」という流れが生まれることがあります。
リピート率や新規顧客の流入経路を追うことで、パッケージの波及効果が見えてきます。
パッケージの効果測定は、「売上が上がったか下がったか」ではなく、
**「お客様の行動や認識がどう変わったか」**を見ることがポイントです。
数字だけでなく、お客様の声に耳を傾けることで、パッケージが果たしている役割が見えてきます。

ここまで、店頭で手に取ってもらうパッケージの話をしてきました。
しかし、ECサイトでの販売がメインの場合、少し考え方を変える必要があります。
店頭では、パッケージは実物大で見えます。手に取って、裏面を読んで、質感を確かめることもできます。
一方、ECサイトではどうでしょうか。最初に目に入るのは、数センチ四方のサムネイル画像です。
スマホで見れば、さらに小さくなります。
つまり、ECでは「小さく表示されたときに、どう見えるか」がまず重要になります。
1. 色のコントラストを強くする
検索結果には、競合商品がずらりと並びます。
その中で埋もれないためには、背景と商品の色がはっきり分かれていることが大切です。
白い背景に白っぽいパッケージは、サムネイルでは存在感が薄くなります。
逆に、鮮やかな色や濃い色を使っているパッケージは、小さくても目に入りやすくなります。
2. 文字は「読ませない」前提で考える
サムネイルサイズでは、細かい文字はほぼ読めません。
商品名やキャッチコピーを読んでもらおうとするより、
色や形で「何の商品か」が伝わることを優先してください。
文字情報は、クリックして詳細ページに来てから読んでもらえばいいのです。
3. 形のシルエットで差別化する
四角い箱が並ぶ中に、丸みを帯びたボトルがあれば目立ちます。
パッケージの形状そのものが、サムネイルでの差別化要素になります。
形を変えるのが難しい場合は、撮影する角度を工夫するだけでも、シルエットの印象は変わります。
ECで購入したお客様は、届いた実物を見て初めてパッケージに触れます。
このとき、「サムネイルで見たイメージと違う」と感じさせてしまうと、満足度が下がり、
レビューにも影響します。
サムネイル映えを意識しつつも、実物とのギャップが生まれないようにするバランスが大切です。
ECでの販売を強化したい場合は、まず自社商品を検索結果で見てみてください。
競合と並んだときに、どう見えているか。それがパッケージ改善のヒントになります。
ここまで、パッケージブランディングについて解説してきました。最後に、大切なポイントを振り返ります。
パッケージは、単なる「入れ物」ではありません。お客様がブランドと出会う、最初の接点です。
店頭で、ECサイトで、届いた箱を開けるとき——その瞬間に、ブランドの価値が伝わるかどうかが決まります。
そして、伝わるパッケージを作るために必要なのは、デザインのセンスではありません。
「このブランドは何を伝えるべきか」を言葉にすることです。
鼻セレブは「やさしさ」を、コカ・コーラは「変わらない価値」を、
関ファームは「トマトそのものの品質」を伝えることで、選ばれるパッケージになりました。
逆に、トロピカーナは伝えるべきものを見失ったことで、お客様が離れてしまいました。
もし今、自社のパッケージに課題を感じているなら、
まず**「このパッケージで何を伝えたいのか」**を考えてみてください。
すぐに答えが出なくても大丈夫です。むしろ、答えが出ないこと自体が、見直すべきサインかもしれません。
私たちザ・カンパニーは、ブランドの本質を引き出し、それをパッケージで表現するお手伝いをしています。
「何を伝えればいいかわからない」という段階からでも、一緒に考えることができます。
パッケージを変えることで、ブランドの届き方は変わります。気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
株式会社ザ・カンパニー
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前2-31-7 ビラ・グロリア#503
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アートディレクター
新潟県出身。印刷会社、デザイン事務所、広告代理店を経てTCに参加。人の心に響くコミュニケーションデザインを心がけています。
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