
店頭で消費者が商品を選ぶまでの時間は、わずか数秒。この一瞬の判断を左右する最重要要素が、パッケージデザインです。
実は、パッケージデザインの変更は、成功すれば大幅な売上増加をもたらす一方、失敗すれば大きな売上減少を招く諸刃の剣です。例えば、コカ・コーラのボトル形状変更では7%の売上増を実現した一方、トロピカーナのデザイン変更では2か月で20%の売上減少を招きました。※1
同じ「デザイン変更」なのに、なぜこれほど結果が違うのでしょうか。
本記事では、パッケージデザインが企業ブランディングにもたらす具体的な効果と、成功するための実践的な戦略について解説します。
パッケージデザインには様々な役割があります。店頭での購入促進、商品の保護、ブランドイメージのアップ、SNSでの拡散、自宅での飾りとして。
大切なポイントは、何を重視するのか、目的を明確化するということです。目的が明確でなければ、パッケージデザインでの成果を上げることができません。
つまり「良いパッケージデザインとは、目的を達成するデザイン」と言えます。
ちなみに、デザインは目的を達成するための手段であり、情報を**「整理」**すること。自己表現を意味するアートとは異なります。自分の好みや感情を判断基準とせず、目的を達成できるか否かを判断の軸にしましょう。
関ファーム「COCOTOMATO」プロジェクト
株式会社ザ・カンパニーが手がけた関ファームのブランディングプロジェクトは、パッケージデザインの力を最大限に活かした好例です。清瀬市に展開するSEKIFARMのロゴマーク、WEBサイト、そしてすべての商品パッケージを一貫したデザインで統一しました。
「COCOTOMATO」のパッケージは、トマトらしさを追求しながらも、シンプルで洗練されたデザインを実現。地域ブランドとしての認知度を大幅に向上させることに成功しました。「人参林檎ジュース」などの関連商品も、統一されたデザイン言語により、ブランドファミリーとしての強固な存在感を確立しています。
コカ・コーラ:形状変更が生んだ7%の売上増
1995年、コカ・コーラがペットボトルのデザインを従来のストレート形状から「コンツアーボトル」(くびれた形状)に変更。製品の中味や広告キャンペーンは一切変更していないにも関わらず、売上が7%増加しました。※1
小林製薬「命の母」:パッケージ刷新による市場拡大
小林製薬の「命の母」は、従来の医薬品らしい堅いイメージから、より親しみやすく現代的なデザインへとリニューアル。新たな顧客層の獲得に成功しました。※1
失敗から学ぶ:トロピカーナの教訓
2009年、トロピカーナは長年親しまれてきた「オレンジにストローが刺さった」アイコニックなデザインを、モダンでミニマルなデザインに変更。既存顧客から大きな反発を受け、わずか2か月で売上が20%も減少。元のデザインに戻すことになりました。
これらの事例から、ブランドの本質を保ちながら進化させることの重要性が明確です。
リアル店舗で売れるパッケージデザインを構築するための重要な視点として、**「メリコの法則」**をご紹介します。お客様が商品を認知してから購入に至るまでの3つのステップを、順を追って解説します。
第一段階は「気づかせる」ことです。
棚には競合商品がひしめき合っています。その中で選ばれる第一条件は、存在に気づいてもらうこと。
重要なのは、派手さではなく「視線を捉える力」。色、形、配置を整理し、3秒で視認できる明快さを追求します。競合と並んだ瞬間、自然と目が向く。それが優れたパッケージデザインの始まりです。
目立つことで視線を捉えたら、次は「これは何か」を伝えます。
手に取った瞬間、商品の本質が直感的に理解できる必要があります。商品カテゴリ、機能、ブランド名。伝えるべき情報を徹底的に整理し、優先順位を明確にします。
余計な装飾を削ぎ落とし、本質的な価値だけを残す。情報の整理こそ、理解を促すデザインの核心です。お客様が「なるほど、こういう商品か」と腑に落ちる瞬間を設計します。
理解した上で、最後に「これがいい」と思ってもらえるか。
目立ち、理解した後、購入の決め手となるのはお客様との価値観の共鳴です。ターゲット層が求める世界観と、ブランドが持つ本質的な魅力。この2つが美しく一致したとき、「これ買おう」という感情が生まれます。
自分の好みではなく、お客様起点で設計する。それが最終的に選ばれるパッケージを生み出します。
パッケージデザインリニューアルをご検討中の方へ
株式会社ザ・カンパニーでは、マーケティング調査から効果測定まで一貫したサポートを提供しています。無料相談はこちら
実は、「売れる」ことは中長期的な目的として、優先順位を下げる場合もあります。
ブランドの希少価値を高めることで、ブランドイメージをアップさせる戦略です。
商品の価格を競合品よりも高価格帯に設定したり、パッケージデザインを高級感のある世界観で表現するなど、意図的に多くの人に**「売らない」状態**をつくります。
供給よりも需要が大きい状態を作ることで、その希少性が高まります。希少性が高い商品が一つあることで、ブランドが話題となり、認知拡大やイメージアップにつながり、ブランド全体へと相乗効果をもたらします。
短期的には「売らない」パッケージデザインを構築することで、中長期的なブランドの「売れる」をつくるのです。この戦略は、ラグジュアリーブランドや限定商品で特に効果的です。
コモディティ化(同質化)する市場において、自社のブランドを手に取ってもらうためには、お客様に対して「競合ブランドと差別化された独自性ある価値を提供する」ことが重要です。
差別化: お客様にとって「欲しい」「買いたい」と思っていただける、競合他社より優れた点や強みを見つけて訴求すること。機能面、価格面、品質面での優位性を明確にします。
独自性: 競合ブランドに代替されない、自社独自のオリジナリティある便益を構築すること。ブランドストーリーや企業理念、製造プロセスなど、他社が真似できない価値を伝えます。
「差別化」と「独自性」の掛け算がある便益だからこそ、お客様が他社ではなく自社ブランドを選ぶ理由となります。
価値があっても、それがお客様に届かなければ意味がありません。ストーリーとしてコンセプトに落とし込み、お客様の体験をデザインします。
コンセプト設計のチェックポイント:
コンセプトが明確であればあるほど、デザインの方向性がブレず、ターゲットに響くパッケージが完成します。
コンセプト設計ができたら、それをビジュアルとして見える化します。
ビジュアル化の5つの戦略:
形状革新による注目度向上 従来の常識を覆すユニークな形状は、強力な差別化要因となります。ただし、機能性との両立が不可欠です。持ちやすさ、保管のしやすさ、輸送効率なども考慮しましょう。
素材選択による付加価値創出 環境配慮型素材の採用は、もはや必須要件となりつつあります。再生紙や植物由来プラスチック、竹や木材などの自然素材など、選択肢は多様化しています。
色彩戦略による視覚的インパクト 業界の常識を打破する色使いは、棚での存在感を際立たせます。ターゲット層の心理に訴える色彩選択、ブランドアイデンティティとの整合性維持、競合商品との明確な差別化がポイントです。
情報デザインによる機能美の実現 必要な情報を美しく、わかりやすく配置することで、機能性と審美性を両立させます。成分表示の視覚的な整理、使用方法のピクトグラム化、QRコードなどデジタル連携の組み込みが効果的です。
体験設計による記憶への定着 購入後も価値が持続する体験を提供することで、ブランドへの愛着を深めます。開封時のサプライズ演出、パッケージの再利用可能性、コレクション性のあるデザイン展開などが挙げられます。
パッケージデザイン評価には「絶対評価」と「相対評価」の両方が必要です。※2
購入意向度(5段階評価) 新しいパッケージデザインを見て、どの程度購入したいと感じるかを測定します。
好感度(デザインの魅力度) デザインそのものの魅力を評価します。美しさ、洗練度、親しみやすさなど多角的に測定します。
商品理解度(機能や特徴の伝達度) パッケージを見ただけで、商品の特徴や機能がどの程度理解できるかを評価します。
競合商品との比較選択 実際の競合商品と並べて、どちらを選ぶかを測定します。棚での勝率を事前に把握できます。
棚での視認性テスト 実際の店頭環境を再現し、何秒で商品を発見できるかを測定します。
価格受容性の検証 デザイン変更後、どの価格帯まで受け入れられるかを測定します。高級路線への転換時に特に重要です。
オンラインショッピングの急速な普及により、パッケージデザインは新たな課題に直面しています。
デジタル環境での見え方を考慮した設計:
サムネイル画像でも識別可能なデザイン スマートフォンの小さな画面でも、一目で商品を識別できることが重要です。シンプルで大胆なビジュアルが効果的です。
360度ビューに対応した全方位デザイン ECサイトでは商品を回転させて見られるため、すべての面で魅力を伝えられるデザインが必要です。
開封動画映えする体験設計 SNSでの拡散を意識し、開封時の体験を演出します。「開けたくなる」「撮りたくなる」デザインがバイラル効果を生みます。
実は、株式会社ザ・カンパニーは、様々な企業のデジタル時代に対応したブランディングを支援しています。
株式会社セイバンの大人向けバッグブランド「MONOLITH」では、EC販売を前提としたUXデザインを設計。マーケティング調査からペルソナ設定、ブランドの性格作りまで、上流から下流まですべてを統合的に設計し、「機能性とデザイン性を兼ね備えた究極のバッグ」として市場での存在感を確立しました。
お客様の意識が変化する中で、パッケージデザインにもSDGs視点が必須です。
持続可能なデザインの要件:
これらの要素を満たしながら高級感を演出することは十分可能です。むしろ、環境への配慮を積極的にデザインに取り入れることで、ブランド価値を向上させる企業が増えています。
環境配慮は制約ではなく、ブランドストーリーを豊かにする要素として捉えることが重要です。
デジタル技術の進歩により、メタバース上でのビジネスも拡大しています。
今後は仮想空間における店舗でのパッケージデザインも求められるようになるでしょう。3Dモデルでの表現や、インタラクティブな要素の追加など、新たなデザイン領域が広がっています。
変えるべき部分と守るべき部分を明確に区別し、ブランドの本質を保ちながら時代に合わせた進化を遂げることが重要です。トロピカーナの失敗事例が示すように、既存顧客の愛着を無視したデザイン変更は大きなリスクを伴います。
科学的アプローチを取り入れながら、感性に訴えるデザインを創造する必要があります。アイトラッキング調査、消費者調査などのデータに基づきながら、ブランドの魅力を最大化するクリエイティブを追求しましょう。
店頭、EC、SNS、さらにはメタバースなど、あらゆるタッチポイントでの見え方を考慮した包括的なデザイン戦略が求められます。それぞれのチャネルに最適化しながらも、ブランドの一貫性を保つことが成功の鍵です。
株式会社ザ・カンパニーは、企業の本質的な魅力を引き出すブランディングを得意としています。
私たちの強み:
パッケージデザインから、CI/VI開発、WEBサイト制作まで、一貫したブランド体験を設計します。
弊社が手がけた主なパッケージデザイン事例:
初回のヒアリングとお見積もりは無料です。パッケージデザインのリニューアルをご検討の方は、お気軽にご相談ください。
A. パッケージデザインのリニューアルによる売上への影響は、戦略と実行により大きく異なります。成功事例では7%以上の売上増加が報告されている一方、適切な戦略がない場合は20%以上の売上減少も起こり得ます。
重要なのは、ブランドの本質を保ちながら、ターゲット層に響くデザインを科学的アプローチで設計することです。ザ・カンパニーでは、マーケティング調査から効果測定まで、一貫したサポートを提供しています。
A. 「メリコの法則」を実践するには、まず現状分析から始めましょう。
実際の店頭で自社商品と競合商品を並べて観察し、「目立つ」「理解できる」「好感が持てる」の3つの視点で評価します。特に重要なのは、お客様視点で評価すること。自分の好みではなく、ターゲット層がどう感じるかを客観的に分析しましょう。
ザ・カンパニーでは、アイトラッキング調査や消費者調査を活用した科学的な現状分析をサポートしています。
A. 既存のブランドイメージを保ちながら刷新するには、「変えるべき部分」と「守るべき部分」を明確に区別することが重要です。
ブランドのコアとなる要素(ロゴ、シンボルカラー、キャラクターなど)は継承しつつ、時代に合わせた表現方法へと進化させます。コカ・コーラのボトル形状変更のように、本質を保ちながら現代的にアップデートすることで、既存顧客を維持しながら新規顧客も獲得できます。
A. EC販売では、サムネイル画像でも一目で商品を識別できることが最重要です。
小さな画面でも商品名やブランド名が読めるか、商品の特徴が視覚的に伝わるかを確認しましょう。また、360度ビューに対応したデザイン、開封動画映えする体験設計も重要です。
ザ・カンパニーが手がけた「MONOLITH」では、EC販売を前提としたUXデザインを上流から設計し、デジタル環境での最適な見え方を実現しています。
A. 環境配慮型素材の採用は初期コストが高くなる場合もありますが、長期的にはブランド価値の向上により投資効果が期待できます。
また、過剰包装の削減は逆にコスト削減につながります。重要なのは、SDGs対応を「コスト」ではなく「ブランド価値への投資」として捉えること。
環境への配慮を積極的にデザインに取り入れることで、現代の消費者の共感を得られ、結果的にブランド全体の成長につながります。
A. パッケージデザインのリニューアルは、プロジェクトの規模により期間と予算が大きく異なります。
一般的には、現状分析からコンセプト設計、デザイン制作、効果測定まで含めて3〜6ヶ月程度が目安です。予算は、調査の範囲やデザインの複雑さによって変動します。
ザ・カンパニーでは、お客様の目的や予算に応じて最適なプランをご提案しています。まずはお気軽にご相談ください。初回のヒアリングとお見積もりは無料です。
出典: ※1 慶應義塾大学大学院商学研究科「製品リニューアルにおけるパッケージ・デザインの変更の効果」2019年38巻3号
※2 知るギャラリー by INTAGE

アートディレクター
新潟県出身。印刷会社、デザイン事務所、広告代理店を経てTCに参加。人の心に響くコミュニケーションデザインを心がけています。
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