実は、消費者が店頭で商品を選ぶまでの時間、どのくらいか知っていますか?わずか数秒の間に購買決定がなされているのです。この一瞬の判断を左右する最重要要素、それがパッケージデザインです。
アイトラッキング技術を用いた調査によると、パッケージデザインの変更だけで売上が15%増加した事例が報告されています。一方で、デザイン変更の失敗により売上が40%近く落ち込んだケースも存在します。(出典:Tobii社調査)
でもなぜだろう?同じ「デザイン変更」なのに、こんなにも結果が違うのはなぜでしょうか。本記事では、パッケージデザインが企業ブランディングにもたらす具体的な効果と、成功するための実践的な戦略について、豊富な事例とデータを交えながら解説します。
株式会社ザ・カンパニーが手がけた関ファームのブランディングプロジェクトは、パッケージデザインの力を最大限に活かした好例です。清瀬市に展開するSEKIFARMのロゴマーク、WEBサイト、そしてすべての商品パッケージを一貫したデザインで統一。
特に「COCOTOMATO」のパッケージは、トマトらしさを追求しながらも、シンプルで洗練されたデザインを実現。地域ブランドとしての認知度を大幅に向上させることに成功しました。さらに「人参林檎ジュース」などの関連商品も、統一されたデザイン言語により、ブランドファミリーとしての強固な存在感を確立しています。
コカ・コーラ:わずかな形状変更が生んだ7%の売上増
慶應義塾大学大学院商学研究科の研究によると、1995年にコカ・コーラがペットボトルのデザインを従来のストレート形状から「コンツアーボトル」(くびれた形状)に変更した際、製品の中味や広告キャンペーンは一切変更していないにも関わらず、売上が7%増加したことが報告されています。
小林製薬「命の母」:パッケージ刷新による市場拡大
同じく慶應大学の研究で紹介されている小林製薬の「命の母」は、パッケージデザインの変更により売上を大幅に拡大。従来の医薬品らしい堅いイメージから、より親しみやすく現代的なデザインへとリニューアルすることで、新たな顧客層の獲得に成功しました。
トロピカーナ:20%の売上減という代償
2009年、果汁飲料大手のトロピカーナは、長年親しまれてきた「オレンジにストローが刺さった」アイコニックなデザインを、モダンでミニマルなデザインに変更。しかし、この変更は既存顧客から大きな反発を受け、わずか2か月で売上が20%も減少。結局、元のデザインに戻すという苦渋の決断を下すことになりました。
資生堂「スーパーマイルド」の教訓
資生堂の「スーパーマイルド」も、パッケージデザインの変更により一時的に売上を落とした事例として研究されています。既存顧客が慣れ親しんだデザインを大きく変更したことで、ブランドアイデンティティとの不一致が生じ、顧客離れを引き起こしました。
(出典:慶應義塾大学大学院商学研究科「製品リニューアルにおけるパッケージ・デザインの変更の効果」2019年38巻3号)
プラグ社が実施した大規模調査では、2023年2~4月に発売された693商品について、20~50代の消費者約3万4000人がパッケージデザインを評価。上位と下位では最大35.4ポイントもの好意度の差があることが判明しました。(出典:日経クロストレンド)
この調査結果を踏まえ、以下の5つのポイントで現状分析を行いましょう:
1. 競合との差別化は明確か? 店頭で他社商品と並んだとき、3秒で自社商品を識別できるか
2. ターゲット層の価値観を反映しているか? 年齢、性別、ライフスタイルに合致したデザイン言語を使用しているか
3. 商品の特徴が瞬時に伝わるか? 主要な価値提案が視覚的に理解できるか
4. ブランドアイデンティティは一貫しているか? 企業や商品ラインとしての統一感があるか
5. 機能性と審美性のバランスは取れているか? 美しさだけでなく、使いやすさも考慮されているか
視線追跡技術による科学的検証
Stratégir社の研究では、アイトラッキング技術を用いてパッケージデザインの効果を測定。リニューアル前のデザインでは、消費者がパッケージ全体を探し回る必要があったのに対し、新デザインでは関連情報を素早く見つけられるようになり、「最初に見るまでにかかった時間」が半減したという結果が出ています。(出典:Tobii)
実際にTobiiStudioソフトウェアによって作成されたヒートマップでは、以下の改善が確認されました:
1. 形状革新による注目度向上
従来の常識を覆すユニークな形状は、強力な差別化要因となります。ただし、奇抜さだけを追求するのではなく、機能性との両立が不可欠です。
実践例:
2. 素材選択による付加価値創出
環境配慮型素材の採用は、もはや差別化要因ではなく必須要件となりつつあります。
選択肢:
3. 色彩戦略による視覚的インパクト
業界の常識を打破する色使いは、棚での存在感を際立たせます。
成功のポイント:
4. 情報デザインによる機能美の実現
必要な情報を美しく、わかりやすく配置することで、機能性と審美性を両立させます。
デザイン要素:
5. 体験設計による記憶への定着
購入後も価値が持続する体験を提供することで、ブランドへの愛着を深めます。
体験設計の例:
インテージ社の調査手法によると、パッケージデザイン評価には「絶対評価」と「相対評価」の両方が必要です。(出典:知るギャラリー by INTAGE)
絶対評価の測定項目
相対評価の実施方法
オンラインショッピングの急速な普及により、パッケージデザインは新たな課題に直面しています。
デジタル環境での見え方を考慮した設計
ザ・カンパニーのデジタル施策事例
株式会社ザ・カンパニーは、様々な企業のデジタル時代に対応したブランディングを支援。例えば、株式会社セイバンの大人向けバッグブランド「MONOLITH」では、EC販売を前提としたUXデザインを設計。マーケティング調査からペルソナ設定、ブランドの性格作りまで、上流から下流まですべてを統合的に設計し、「機能性とデザイン性を兼ね備えた究極のバッグ」として市場での存在感を確立しました。
環境意識の高まりは、パッケージデザインに新たな制約と機会をもたらしています。
持続可能なデザインの要件
ちなみに、これらの要素を満たしながら高級感を演出することは可能です。むしろ、環境への配慮を積極的にデザインに取り入れることで、ブランド価値を向上させる企業が増えています。
1. ブランドDNAの継承と進化 変えるべき部分と守るべき部分を明確に区別し、ブランドの本質を保ちながら時代に合わせた進化を遂げることが重要です。
2. データとクリエイティビティの融合 アイトラッキングや消費者調査などの科学的アプローチを取り入れながら、感性に訴えるデザインを創造する必要があります。
3. オムニチャネル時代の統合戦略 店頭、EC、SNSなど、あらゆるタッチポイントでの見え方を考慮した包括的なデザイン戦略が求められます。
パッケージデザインは、もはや単なる「包装」ではありません。それは企業の顔であり、ブランドの約束であり、消費者との最初で最も重要な対話です。適切な戦略と実行により、パッケージデザインは売上を大きく向上させる強力な武器となります。
今こそ、あなたの商品のパッケージデザインを見直す時です。現状分析から始め、科学的なアプローチを取り入れながら、ブランドの本質を表現する新たなデザインを追求してみませんか?
A. リニューアル費用は、プロジェクトの規模や要件によって大きく異なります。簡易的なデザイン変更なら50万円程度から、ブランド戦略を含む全面リニューアルなら数百万円以上になることもあります。まずは現状分析と目標設定を行い、費用対効果を考慮した最適なプランを選択することが重要です。初期投資は大きくても、売上向上効果を考えれば十分にペイできる投資となります。
A. 確かにリスクは存在しますが、適切なアプローチで最小化できます。段階的な変更、既存デザインの良い要素の継承、事前の顧客調査、変更理由の丁寧な説明などが重要です。むしろ、時代に合わせた進化を怠ることの方が、長期的には大きなリスクとなります。変更前後でのA/Bテストや限定地域での試験導入も効果的な手法です。
A. 初期コストは確かに上がる傾向にありますが、長期的視点では大きなメリットがあります。環境意識の高い消費者からの支持獲得、ブランドイメージの向上、将来的な規制への先行対応などの価値があります。また、技術革新により環境配慮型素材のコストは年々下がっており、量産効果も期待できます。サステナビリティは今や差別化要因ではなく、必須要件になりつつあります。
A. 必ずしも分ける必要はありませんが、それぞれの特性を考慮した最適化は重要です。EC向けには配送耐性と開封体験、サムネイル映えを重視し、店舗向けには棚での視認性と手触り感を重視します。基本デザインは統一しつつ、サイズバリエーションや梱包方法で対応する企業が増えています。オムニチャネル時代には、両方に対応できる柔軟なデザイン戦略が求められます。
A. もちろん可能です。予算が限られていても、ターゲットを明確にし、シンプルで印象的なデザインを追求することで大手に負けない存在感を発揮できます。地域性や手作り感、ストーリー性など、小規模企業ならではの強みを活かすことが重要です。また、デジタル印刷技術の進化により、小ロット生産でも質の高いパッケージが実現可能になっています。クラウドファンディングでの資金調達も選択肢の一つです。
A. 売上データの前後比較、店頭での視線追跡調査、購入者アンケート、SNSでの反響分析、リピート率の変化など、複数の指標を組み合わせて測定します。特に重要なのは、デザイン変更前のベースラインデータをしっかり取っておくことです。A/Bテストによる比較検証や、限定店舗での試験導入による効果測定も有効です。定量データと定性データの両方を収集し、総合的に評価することが成功への鍵となります。
アートディレクター
新潟県出身。印刷会社、デザイン事務所、広告代理店を経てTCに参加。人の心に響くコミュニケーションデザインを心がけています。