グラフィックデザインの成功は、機能要素と装飾要素の適切なバランスにかかっています。多くの企業がデザインに投資する中で、この基本原則を理解せずに制作を進めてしまうケースが少なくありません。
実際、ザ・カンパニーが手掛けた数多くのブランディングプロジェクトでも、この2つの要素の最適化により、ユーザーエンゲージメントの向上を実現してきました。たとえば、早稲田大学歴史館のVI開発では、情報の整理(機能要素)と視覚的な魅力(装飾要素)を両立させることで、来館者にとって価値ある体験を提供しています。
本記事では、グラフィックデザインを効果的に活用したい企業の担当者様に向けて、デザインの構成要素と実践的な活用方法を詳しく解説します。
機能要素の最も重要な役割は、ユーザーが必要とする情報を迅速かつ正確に伝えることです。情報の階層構造を明確にし、視線の流れを考慮したレイアウトを設計することで、ユーザーの理解度は大幅に向上します。
実は、人間の視線は左上から右下へ流れる「Zパターン」や「Fパターン」に沿って動くことが、アイトラッキング研究により明らかになっています。Nielsen Norman Groupの研究では、ユーザーはまず水平方向に視線を動かし、次に垂直方向に下へ移動し、再び水平方向に読み進めるF字型のパターンを示すことが報告されています。
(Nielsen Norman Group “F-Shaped Pattern of Reading on the Web”)
この科学的知見を活用することで、重要な情報を適切な位置に配置し、メッセージの伝達効率を最大化できます。
優れた機能要素は、すべてのユーザーにとって使いやすい環境を提供します。特にWebデザインにおいては、以下の要素が重要です:
「3クリック以内で目的の情報に到達」という考え方がありますが、これは2001年にJeffrey Zeldmanが提唱したもので、現在では絶対的なルールではなく、情報への明確な経路を示すことがより重要とされています。
出典:Jeffrey Zeldman “Taking Your Talent to the Web” (2001)、Joshua Porter “Testing the Three-Click Rule” (2003)
ザ・カンパニーが提唱する情報整理の手法は、「本質的な魅力を引き出すための整理」です。単に見た目を良くするのではなく、企業やサービスが持つ本来の価値を最大限に引き出すことを目指します。
たとえば、銀座もとじ様のECサイトリニューアルでは、商品スペック中心の情報提示から、着用シーンや季節感を最優先に配置する構造へと転換しました。さらに「季節の着姿」という新コンテンツで着物のある生活をイメージできるようにし、サイズ選びのサポート機能や帯・小物とのコーディネート提案など、着物ならではの購入フローを充実させることで、ECサイトにおける最適なUIUXを実現しました。
色彩は人の感情に直接働きかける強力なツールです。業界や商品特性に応じた適切な色彩選択により、ブランドメッセージを効果的に伝えることができます。
例えば:
帝人フロンティア株式会社のSOLOTEX®ブランディングでは、素材の機能性と革新性を表現する配色により、B2C市場での認知拡大に成功しました。
文字のデザインは、ブランドの性格を決定づける重要な要素です。フォントの選択から文字間隔、行間の調整まで、細部にこだわることで、独自のブランドボイスを確立できます。
効果的なタイポグラフィの3原則:
イラストや写真、アイコンなどのビジュアル要素は、言葉では表現しきれない感情や雰囲気を伝えます。特に近年では、動的なビジュアル表現が注目を集めています。
効果的なデザインは、機能要素を優先しつつ、装飾要素を適切に配分することが重要です。一般的には、情報の伝達と使いやすさを確保した上で、ブランドの個性を表現する装飾を加えることで良いバランスが生まれます。この配分は業界や用途により大きく異なり、B2Bサイトなら機能重視、ブランドサイトなら装飾要素を増やすなど、目的に応じた調整が必要です。
デザインの一貫性を保つためには、以下の要素を明文化したガイドラインが不可欠です:
デザインの成功は、最終的にユーザーの反応で判断されます。A/Bテストやヒートマップ分析を活用し、定量的なデータに基づいた改善を行うことが重要です。
すべてのユーザーが快適に利用できるデザインを目指し、以下の項目を確認します:
WCAG 2.1(Web Content Accessibility Guidelines)では、通常のテキストに対して最低4.5:1、大きなテキスト(18pt以上、または14pt以上の太字)に対して3:1のコントラスト比を推奨しています。
出典:W3C “Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.1”
美しいデザインも、読み込みが遅ければユーザー離脱につながります。画像の最適化、CSSの圧縮、不要なスクリプトの削除など、技術的な側面も考慮が必要です。
複数の研究とガイドラインによれば、Webサイトの本文テキストには最低16pxのフォントサイズが推奨されています。これは、一般的なブラウザのデフォルトサイズであり、画面上での16pxは印刷物の12ptに相当し、適切な距離から見た場合の書籍のテキストサイズと同等の可読性を提供します。
“Font Size Guidelines for Responsive Websites” (LearnUI.design)
“Designing for Readability” (Toptal)
特にモバイルデバイスにおいては、16px未満のフォントサイズを使用すると、iOSのブラウザが自動的にズームインする場合があり、ユーザー体験を損なう可能性があります。
読みやすさを向上させるためには、行間(line-height)を文字サイズの1.5〜1.8倍に設定することが推奨されます。また、1行あたりの文字数は50〜75文字が理想的とされており、これにより視線の移動がスムーズになり、長文でも疲れにくい読書体験を提供できます。
AI技術の進化により、デザイン制作のワークフローが大きく変わりつつあります。ザ・カンパニーのLAB事業では、古着屋ジャンボデンキのAI Chatbot「ジャンボGPT」開発など、最新技術を活用した施策を展開しています。
環境配慮への意識の高まりとともに、デザインにもサステナビリティの視点が求められています。デジタルファーストのアプローチや、印刷物の削減、リサイクル可能な素材の選択など、持続可能なデザイン戦略が重要になっています。
グラフィックデザインで成果を出すためには、以下の3つのポイントが重要です:
グラフィックデザインは、企業とユーザーをつなぐ重要な架け橋です。本記事で紹介した要素を意識しながら、自社のブランド価値を最大限に引き出すデザインを追求していくことが、ビジネスの成功につながります。
デザインの力で「本質的な魅力」を引き出したい企業様は、ぜひ専門家への相談もご検討ください。ザ・カンパニーでは、戦略設計から制作、運用まで一貫したブランディング支援を提供しています。
A. 最も重要なのは「機能要素と装飾要素のバランス」です。どちらか一方に偏ることなく、目的に応じて適切に配分することが大切です。一般的には、情報の伝達と使いやすさを優先しながら、ブランドの個性を表現する装飾を適度に加えることが効果的です。BtoBサイトなら機能重視、ブランドサイトなら装飾要素を増やすなど、用途に応じた調整が必要です。まずは自社のデザインがどちらに偏っているか診断することから始めることをおすすめします。
A. ブランドガイドラインの作成が最も効果的です。カラーパレット、タイポグラフィルール、余白の使い方、画像のトーン&マナーなどを明文化し、チーム全体で共有することが重要です。また、デザインパターンライブラリを作成し、再利用可能なコンポーネントを整備することで、異なる制作者が関わっても統一感のあるデザインを実現できます。定期的なデザインレビューの実施も一貫性維持に役立ちます。
A. 色彩選択は業界特性とターゲット層を考慮することが基本です。信頼性を求められる金融・医療業界なら青系、環境配慮を訴求するなら緑系、エネルギッシュさを表現したいなら赤系が効果的です。また、プライマリーカラー1色、セカンダリーカラー2-3色、アクセントカラー1色の組み合わせが理想的です。色覚多様性への配慮も忘れずに、コントラスト比はWCAG 2.1のAAレベル(4.5:1以上)を維持しましょう。
A. まず情報の階層構造を明確にし、3クリック以内で目的の情報に到達できる設計を心がけます。フォントサイズは最低16px以上を確保し、行間は文字サイズの1.5-1.8倍に設定します。また、視線の流れを考慮したZパターンやFパターンのレイアウトを採用し、重要な情報を適切に配置します。定期的にヒートマップ分析やA/Bテストを実施し、データに基づいた改善を継続的に行うことも大切です。
A. 定量的指標と定性的指標の両方で測定することが重要です。定量的指標としては、ページ滞在時間、直帰率、コンバージョン率、クリック率などをGoogle Analyticsで計測します。定性的指標としては、ユーザーインタビューやアンケート調査でブランド認知度や好感度を測定します。また、ヒートマップツールで視線の動きを分析し、意図通りに情報が伝わっているか確認することも効果的です。月次でこれらの指標をレビューし、PDCAサイクルを回しましょう。
A. AI技術の活用とサステナビリティへの配慮が不可欠です。生成AIツールを活用した効率的なデザイン制作プロセスの構築、パーソナライゼーションの強化、インタラクティブな要素の実装などが求められます。また、環境負荷を考慮したデザイン設計、デジタルファーストのアプローチ、アクセシビリティの向上も重要な要素です。最新技術を取り入れながらも、ユーザー中心の設計思想を忘れずに、本質的な価値を提供することが成功の鍵となります。
アートディレクター
新潟県出身。印刷会社、デザイン事務所、広告代理店を経てTCに参加。人の心に響くコミュニケーションデザインを心がけています。