村へ移住してもうすぐ1年、やっと空き家を借りることができた。
これは村内である程度の信頼を得たことを意味する。
「家賃は1万円でいいけど、家の修理とかは全部自分でやってね。好きにしちゃっていいからさ」
「了解しました!ありがとうございます!」
家屋は数年人が住んでいなかった割には小綺麗に見える。
しかし、畳や床は所々ベコベコしていて生活するには落ち着かなさそうだ。
よくよく見ると気になる砂壁の剥がれや、隙間をその場しのぎで接着したテープと補修材の跡。
一人で住むには十分すぎる広さなのにお手製で無理やり拵えてしまった2階部屋、それに続くごっつい階段や多すぎるドアなどは全く趣味ではない。
全部、撤去したい。
これは結構な大仕事になるのかも。思いっきりやっちゃっていいのかも。
人生初めての大工仕事、DIYだ。
近所に住んでいるタートルさんという70歳で金髪で昔山本寛斎の事務所で働いていてヨーロッパと北欧をヒッピー放浪していたお爺さまがアドバイスをくれることになった。
毎回若干ずつ異なるそのアドバイスとYoutubeから真実を見つけ出し、手探りで少しずつ作業を進めていく。
バイブスは満タンである。
しかし、現実は動画のようにすいすい進むほど単純ではなかった。
床を引っぺがすと、支えとなる束(つか)は地面から浮いていてその役目をろくに果たしていなかった。さらにそれを支えるはずの石はいびつに不安定な面を土の地面に晒していた。これでは床がぐずぐずで当然だ。
タートルさんもこれには唖然、「今まで見た家の中で一番ひどい」と、入れ歯が飛び出しそうだ。
買い物は1時間半かけて青梅の巨大なホームセンターへ出向く。
木材は製材されてはいるが一本一本個性的に反ったり削れていたりするのでよくよく注意しなければいけない。
材は高騰していて思ったよりも大分値段が高い。間違いは厳禁だ。
とかいって、早速1万円近くミスった買い物をしてしまい後の祭りだったことはもう忘れよう。
そんなことよりも覚えていなければいけないのは、旧友の満腹君が引っ越し祝いと称して高価なマルチツールを買ってくれたり、タートルさんが寒い中作業を手伝ってくれていることだ。
住み始めの4月1日までに立派な家に作り上げるのだ。
いや、贅沢は言わない。せめて剥がして後戻りできない床だけでも無事に貼り終えられれば・・・。
初っ端からからマイナススタート続きだが、不思議と何があっても気落ちすることはない。
それは単純に大工仕事が面白いからだ。
当たり前だ。移住食の「住」に初めて取り組んでいるのだから。
続く!