Culture

2019/09/20
温泉で働く・秋田県乳頭温泉郷「黒湯」

雪の時期は車での移動が怖く道路が閉鎖される区間も多い。どこかの温泉で熊のように越冬出来たらとなんとなく考えていた。

そんな話を友人にすると、近所にある黒湯では1日、2日だけでも働けるという答えが返ってきた。

本当なのか?

 

半信半疑で黒湯の湯に浸かりに行ってみる。

2つの源泉から流れ出る乳白色と豊富な湯ノ花、酸性のセクシーなお湯だ。自炊場、囲炉裏がある湯治棟。湧き水。茅葺の屋根。打たせ湯。露店の混浴。山の谷間にある宿は朝靄と源泉の湯気が混じり合い雲霧に包まれるようだった。

昔の風情が残っている。

何を隠そう、黒湯は以前にブログで書いたつげ義春さんの作品にも登場する名湯だ。

風呂上がりにフロントでバイトの話を訪ねてみると一つ返事で、

「はい、大丈夫です!1日でも、2日でも!」

 

働いてみない理由はなかった。

1週間ほど黒湯に住み込みながら仕事をすることとなった。

 

 

 

 

勤務時間は朝6時から夜8時まで。中抜けの休憩が3時間ある。

内容は山小屋とそう変わらない。朝食、夕食の準備と片付け。客室、館内の清掃。時間が余ればその他の細々としたことをする。

山小屋と違って黒湯はちゃんとお客様をおもてなしする。なので、細かい所にも小さな気を配らなければならなかったが大体の仕事はすぐに覚えられるものだった。

秋田県の最低賃金は762円だ。

 

そんなことよりもなによりも、やってみたかったのは温泉の掃除。

湯ノ花あふれる浴槽はお湯をはったまま毎朝デッキブラシでこすられる。源泉から渡されるパイプも詰まってお湯の出が悪くなるほどにその量は多い。

お湯の管理をする湯守りという役目の方が言うには、天候や季節によって温度やPhの具合違うとのこと。毎日の微調整で適度な湯加減と湯量を目指している。

 

「温泉は地球だから」と、湯守りさん。

 

くぅ~。こういう一言が聞いてみたかったぁ~。

 

 

 

 

日雇いに近い形でも雇ってもらえる理由はあからさまな人手不足だった。

従業員の平均年齢は60代で、私が最年少になる。紅葉時期は客の大半が外国人客になるとのことだが英語で接客できる人はほぼいない。

風呂で一緒になったチェコ人に東北の印象を訪ねてみると、「通りに人が歩いていない。それに老人がたくさん働いている」と言われ、アイ アグリーと私も答えた。

 

東京から離れれば離れるほどに自分が知らなかった日本の姿が実感できて旅の情緒も深くなる。ただ、それが寂しい風景とか残念なことという風には思っていない。人がいない方がチャンスはあるし、自由は大きいのだから。若い人がいないからどうだというのだ。奥様達は世界一旨い郷土料理をつくるし、おやじさん達はギリギリのギャグと仕事のヌケ具合でいつも私を笑わせてくれる。年齢なんて関係ないのだ。目の前の現実を笑って味わえばいい。これはある意味日本の最先端の姿なのだから。

いよっ、秋田県!人口減少率No1!最高!!!

 

 

 

 

毎日手のこんだ賄い料理をいただき、温泉に入り、渓谷の静けさにぼーっとする。

車中泊の続いた移動の中、温泉宿の裏の居場所で贅沢に羽を伸ばすことが出来た。

 

「またいつでも帰ってこい。明日でもいいんだぞ。がははは!」

 

旅人が言われて一番嬉しい言葉で送り出してくれた。

黒湯、大変お世話になりました。ありがとうございました。

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