Culture

2015/12/27
農薬を撒く・思うこと

ミカンは出荷時期が早生(わせ)・中生(なかて)・晩生(おくて)と、3つに分けられる。

晩生ミカンは倉庫で1カ月程貯蔵されるので、ミカンをもぐ前に防腐剤を散布しておく必要がある。

上下のレインコートと長靴にゴム手袋、マスク、そして、何故かヘルメットをかぶり、同僚のあつし君と苦い顔をしながら3日間、防腐剤入りの15トンの水をホースで畑に撒いていった。

 

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親方のデバリさんは涼しい顔で、がんがん木から木へと放水していく。

ミカンの木の内側に入って一つ一つのミカンを意識しながら放水するので、すべて撒き終わるころには手袋の中までびちょびちょだ。あつし君は2回、デバリさんのホースからの水鉄砲を顔面直撃し悶絶していた。

気分は決してよくない。

 

「昔は硫黄と石灰を使ってたんやけどな、その時は手があれて大変やったんや。今のはそんなことないで。サハラ君も手、荒れちょーな。はちみつつけたらええよ。」

と、デバリさん。

夕方頃になると襲って来る気だるさや、夜の眠りがちょっと変なのは防腐剤のせいか、それを意識している私のせいかは分からない。

 

 

今まで働いてきた農家はどこも無農薬、有機肥料で、モンサントとも無縁だった。

科学的なことは詳しく知らないが、私の周りの好きな人達がそういう思想だったのでそれがいいことだと思っていたし、思っている。それに、夏の田んぼの畔の草刈りや、日常的な雑草との戦いは私の好きな作業でもあった。ミミズや蛇ら生き物が多くいる畑はテンションが上がる。

 

消費者目線でも農薬を使わない野菜がいいという意見は一般的になりつつある。

しかし今回いざ生産者目線になってみると、農薬を使う1番の問題は、ダイレクトに自分が薬を浴びる立場になってしまうことだと気が付いた。

あつし君が宮古島で葉タバコの仕事をしていた時、農薬散布中にやけに眠くなった話を聞かせてくれた。

タバコ畑では肌からもニコチンを吸収してしまうらしく、島民でもその仕事を嫌がる人がいるらしい。

しかし、生産しなければ農家は食っていけないのである。

そして、日本の食は農薬なしではもはや成り立たない。成り立っていなのだけれど。

 

いままでそんなことにも頭が回らずに、オーガニック最高―とか言っていた自分が恥ずかしくなった。

自分が食べてきた野菜は誰かが毒をくらって育てた食べ物なのである。

どんなものでも、おいしくいただかなくてはいけない。

 

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 今日は痛みのある晩生ミカンを選別した。

見た目はちょうど食べごろのミカンでも、少しでも皮に緩みのあるものは1カ月の貯蔵中に腐ってしまったり、段ボールに詰めた時に形が崩れてしまうのでジュース用のミカンとなる。

 

「今ならこのまま食べられるんや、もったいないな」

 

普段口数の少ないデバリさんの一言に、なんだかジーンと来てしまった。

 

嫌いな農薬を撒いて初めて、「農業を体験したことがあります。」と、言える気持ちになった。

 

 

人間て不思議だ。

 

 

 

今年最後のブログ更新となりました。

お読みいただきありがとうございました。

また来年も、業務とは一つ違う視点で皆さまと繋がれれば幸いです。

 

どうぞ、よいお年をお迎えください。

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