Culture

2019/06/03
暮らしを編み込む夫婦・石栗周坪、千尋さん

石垣島発、羽田行きのJALに乗り、座席のポケットにある季刊誌を手に取った。

つい先日まで一緒にサトウキビの収穫をしていた周坪君と奥さんの千尋ちゃんがドドーンと紹介されている。

 

 

 

 

2人はトウツルモドキという八重山に自生する蔓を原料に作品を作る職人だ。

与那国島のかごに魅了されてから6年間、やまいとぅ工房という名前で仕事を続けている。

 

 

 

 

手編みの民具は面白い。私が初めて手にしたのはクバという植物で作られた頭にかぶる傘だった。

何年も続けてサトウキビの収穫をしている友人達は大抵これをかぶって仕事をしている。1月2月の激しい雨や年中降り注ぐ紫外線にはもってこいとのこと。私も島のおじぃに一つお願いして作って頂き使ってみると、その軽さや風通しの良さ、そしてなんといっても味のある独特な機能美に惚れ込んでしまった。ノスタルジーではなく物としての完成度が非常に高い。

島の友人の家には手作りの弁当箱やバスケット、コースター、座布団なんかがさらっと置いてあって暮らしに彩を添えている。そしてその色合いは年々風味を帯びて来る。

大きさやデザインも自分で選べるし、こうなると私も作れたら最高だなぁとだんだん思うようになった。

 

が、しかし残念、私は手先が決して器用とは言えない。とても言えない。

そして何よりも作品完成までの道のりを歩む地道さがなく、始める前からなんだかいじけ気味・・・。

これは現代人という病なのかもしれない。

 

 

 

 

山に入ってつるを採取し、裂き、細さを整えたひごを作り、水に浸して、編み込んで、完成させ、注文分をこなし、展示会の準備をして、手元にお金となって戻って来る。

とても簡単に言うと2人の仕事はこんな具合だ。

皆さんだったらそんな仕事にいくらの対価を払うだろうか。

 

こういう時代なので価値ある手仕事に需要はある。

数ヶ月待ちの注文を2人も抱えているし、先日もふらっと工房にやってきた観光客が2つ3つ気に入った作品を持ち帰った。

しかし、仕事にかける時間や技術に見合うものを彼等がもらっているかといえば、そうではない。

値段は安い。

 

「でも、富裕層向けの商売はしたくないのよ」

 

と、あっさりと言ってしまえる奥さんの千尋ちゃんがめちゃくちゃ素敵だ。

収入のためならばワークショップや商品の単価を上げるなんかの方法がいくつかある。でも、彼らのしたいことは単純にかごを編むことであって、「それで食べて行く」という一般的には優先される順位が後になっている。

彼らの作品は商品ではなくアートだ。

 

 

 

 

与那国島で本格的に作品を作っているのはもうこの2人くらいしかいない。

昔の習慣や言葉を話す人も、「もう数人しか残っていない」と、ことあるごとに言われている。

しかし、伝統を継承するというような気負いは2人にはない。単純に好きなものを、自分たちが選んだスタイルでやっているだけだ。

 

2人の暮らしは充実している。

毎日ギターを手に取ったり、手の込んだ料理に精をだしたり。

雷が聞こえれば稲妻を見に行って、気持ちのいい夜には焚火を囲む。

夏にはゆったりと時間のとれた旅に出て刺激を受ける。

そんなリズムを生きているからこそ、多くの人が忘れてしまった手仕事に意味を見出して取り組むことができるのではないか。一つ一つ手の込んだ暮らし方からそんなことを思うと、2人が少し羨ましくなった。

もう一度言うが、私にはこの手仕事をすることが出来ないだろう。

しかしその本当の理由は、手先の器用さや忍耐力の話ではなく、根本的な価値観や自分の今の暮らしの在り方に問題があるのだろう。

 

 

彼らから買わせてもらったかごを眺める。

神様がこれに値段を付けたとしたら、いったいいくらになるだろう。

 

 

飛行機は無事、出発した沖縄から東京へ着陸しようとしている。

 

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