急なお願いにもかかわらずM茶房は私を快く受け入れてくれた。
茶房の社長に「車を駐車しておける場所さえあれば有難いのですが」と伝えると、「はい、どうぞ」と言ってくれて、農機具の倉庫でテント暮らしが始まった。
埃と堆肥の香とたまに侵入してくる猫に苦笑いしながら新しい生活は始まった。
しかし、さすがのコンディションを見兼ねてか、数日後に社長が新しい部屋を提供してくれた。
ここは出来上がったお茶の味見をする「テイスティングルーム」という部屋で、日中は人の出入りがあるため夜だけ私の部屋になる。
寝具や私物は毎日片づけなくてはいけないが、倉庫よりも清潔だし出来立ての色んなお茶が飲み放題だ!
しかし、そんな千利休気分もつかの間のこと・・・。
諸事情によって女子寮に住めなくなった従業員がテイスティングルームに入って来るので私は三度の引っ越しを余儀なくされた。
また倉庫生活に逆戻りなのか・・・と思っていると、ピンチを救えるのは唯一、もはや神様だけだった。
ここの会社は阿弥陀さんと呼ばれる神様を祭っていて、わざわざこの神様のために拵えた小さなワンルームがある。
工場のすぐ脇だ。
あぁ、神よ、いったい何の所以あってここへ今夜私をお導きになったのでしょう。願わくは今夜は悪夢にうなされることなく、天井に舞う如来のごとき夢見心地のまま朝を迎えて元気はつらつ勇気凛々で後光射すかの様な朝日を拝みながらラヂオ体操が出来ることを。
今夜は就寝いたします・・・。
・・・もちろん、私の日々の善行のため、すがすがしい朝は訪れた。
そしてその2日後、神は願いを聞き入れてくださり、ついに私に安住の地を与えることをお約束になった。
「部屋の汚い者同士は相部屋」という茶房の新しい憲法が見事制定されたため、工場2階に住んでいたい友人2人は相部屋となり、それによって空いた個室の1人部屋を手に入れたのだ。
2つの大きな窓から小高い山と茶畑の風景が広がり、まぶしい朝日が差し込んでくる。広々とした人間らしい生活を送れそうな空間だ。
ついに私はM茶房において人権を獲得した。
お茶の仕事について書こうと思ったのですが、大事の前の小事ということで私の生活のことをつい書いてしまいました。
何事をするにもその基盤は快適な暮らしにあるということを感じて、生きてるだけでとても嬉しいです。快適に暮らすために丁寧に生活することで人生の満足度は増すのだなと実感した次第であります。
屋根のある暮らし、最高です。
さぁぁ、仕事だ仕事だ~。