九州やエクアドルのニュースが揺れ動く中、娯楽としての文章を書いて公表するのはなかなか心苦しく、肩身も狭い。
こんな時こそ音楽が世界を救うと願って、今回からディスクレビューを時々書いてみようと思います。なんとなく自分が感じている世の中の空気や、最近の私の近況に合わせてアルバムをその都度選んでいきます。
Elizabeth Cotton(アーティスト)
Freight Train and Other North Carolina Folks Songs and Tues.(アルバム)
1895年生まれ、アメリカのブルースアーティスト、エリザベス・コットン
彼女のことを知ったのはいつかの冬、私がスノボで転んで負傷して何もできなくなり、朝から一人、部屋で酒を飲んでしまっていた頃だ。
友人が遊びに来てくれた時に何枚かくれたCDRの中の唯一のブルース作品で、全くダンスできない体で聞くには丁度良く、気が付くと酒のつまみにずっと聞いていた思い出の1枚。
アルバムは全曲彼女のギターソロと弾き語りのみで構成されている。
普段ブルースをそんなに聞かない私がこの作品をずっと聞いていられたのは、ブルースながらの暑苦しさが全くないところ。そして、彼女のバックグラウンドにキリスト教の聖歌があるからだろう。11曲目の後半は誰もが知っている讃美歌、「い~つくしみふか~き~」だ。
ブルースというよりは、フォークだ。
どの曲もアップテンポで曲調は明るい。メロディーは優しさだけに収まらず、1,7曲目なんかは魔法の呪文の様な香りを放っている。年齢のせいで定まらない声の揺らぎや歌い出しのかすれ具合は、昔一緒に住んでいた祖母の部屋の覗いてはいけない押入れの中の空気と同じだ。
そう、このアルバムの聞き所は、おばあちゃんが歌っているブルースというところにある。
指先と唇以外はほとんど動かずに皺くちゃの声で歌う彼女は「THEおばあちゃん」。
見せ方とか、上手いヘタとかそういうことをきっと全く気にせずに、ただただ演奏するそのスタンスこそが聞き手にも極上の脱力感を与えてくる。これはもはや、才能とか実力とかを超えて、年齢のなせる業なのかもしれない。
友人が昔、「赤ちゃんとか老人って、神様にちょっと近いよね」と言ったことがあるが、「あぁ、なるほどね。そういう人って、こういう音を出せるわけだね」と、今納得して彼女のアルバムを聴いている。
何だか、祈りにも似た静かな気持ちになる。
1984年にグラミー賞の最優秀エスニック/トラディショナル・レコードを受賞した彼女は、「ありがとう。私はあなたたち全員のためにギターをもって歌えることを願うだけです」とコメントしたという。
被災地の方々の平安と、1日も早い復興を祈っています。
アルバム全編、こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=31vOJBHcEmE