Culture

2023/02/13
日本蜜蜂の養蜂・その5

蜜を処理するための道具をなんとかかき集め、いよいよ巣板を剥がしていく。

蜂蜜はこの巣板の蓋がされている白っぽい部分の中に蓄えられている。ここを崩さずそのまま食べるのがコムハニー(巣蜜)と呼ばれるものだ。道の駅で見かけることがたまにあるが、国産のものは市場にはなかなか出回らない。それが日本蜜蜂のものであるならなおさらだ。

なので、まずは蜂蜜としてでなくコムハニーとして収穫をすることにした。

しかしいざ巣に触れるとそれはミルフィーユのようにもろく、迂闊に手にすると蜜の蓋をしている部分が破れて中身が飛び出してしまう。

慎重かつ大胆な潔さが必要だ・・・。ええいままよ。

 

 

コムハニーは美味しかった。

中に詰まった蜜は村中の花々から集められたた正真正銘この土地の味で、私の想像力を掻き立てた。

巣板は蜜蝋になる部分だが、ここはコラーゲンをはじめとする栄養素の宝庫となっている。食感は歯にくっつきやすいチューインガムの様だ。一度にたくさん頬張ると飲み込むことができないくらい存在感がある。

これを巣板と格闘する間に何度も食すことになった。

なぜかというと巣は作業中てんでばらばらそこら中に散らかってしまい、それを勿体無いとその都度口に運んでいると、気がつけば私はクマのプーさん状態になっていたからだった。

 

 

数時間の格闘の末、何とか全ての板をラップに包み終えた。

細かいカスからは蜜を絞ってみることにする。

想像以上に量があり、蜂蜜を生産したという気持ちがゆっくり湧いてきた。

 

 

ほっとしたところで、SNSで巣板を販売すると投稿してみた。1グラム11円という強気な価格設定にも関わらず反響は大きかった。皆が日本蜜蜂のことを知っているわけではないが、生産者の顔が見える商売の強みなのか、それとも蜂蜜自体のイメージが良いからなのか、とにかくみんなが買いたがってくれた。

しかし、結局販売したのは数人だった。

 

なぜかというと、大口が見つかった。

 

geekstillはお酒のクラフトジンを造る会社だ。

社長のホッツさんは私の村が好きでしょっちゅう遊びにやってくる。村の飲食店でジン飲み放題のイベントをやってくれたりフォーを無料で振る舞ってくれる懐の深いお方だ。

彼が私の蜂蜜を気に入ってくれたのだ。

山梨産の原料を使いたい。しかもこんな小さな村の百花蜜(日本蜜蜂の蜂蜜のこと)なんて、最高じゃないか!と言っていただき、私は手元にあった巣板と蜜の搾りカスを全て託すことに決めた。

最初は値段の設定があったが、ホッツさんとの親交もあって、仕入れ値は出来上がった商品支給でという互いにアッパーな取引となった。

 

私は人生で初めて生産者になった気分を味わった。

ないところからあるものを生み出して届けるのが、私の想う生産者だった。

生産物が届いた人からはいろんな感想や写真が送られてくる。次のアイディアや可能性も教えてもらう。

そうして私はまた何かを生産し、それを仕事として生業の一部にする。

そのお金で生きる糧を買う。

 

今まで不信感しかなかった仕事や価格というものに落とし所を見つけるきっかけができたかもしれない。それは結局誰か、もしくは自分が好きな人への奉仕による喜びでしかないという思っていた通りの結末になるかもしれないが、実感を通して次はそれを確信するかもしれない。

というか、今回もうしたのだ。

そして全ては「蜂」という自然に私は頼り切っているにすぎない。

つまりはそういうことなのだ、と、物思いにふけった。

 

まだ、続きます。

蜂、本当ありがとう。

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