Culture

2017/08/18
カメの一斉産卵・アリバダ

ジャマイカから、ボランティアの友人がコスタリカへ遊びに来て言った。

「アリバダ(カメの一斉産卵)見に行こうと思ってさ」

あ、すっかり忘れてた。見なくてはいけないと思っていたことを危く思い出した。よかった。

近所の友人も丁度見に行く予定だったらしく、便乗してOstionalという浜辺へ出発した。

 

アリバダが見られるのは8月、9月、10月の下弦の月の前後3日間で、潮が満ちるタイミングでやってくるらしい。産卵自体はちょこちょこ見られるらしいが、数えきれないほどのカメに出会うには日程的余裕が必要だ。はっきりした日程はカメが来るまで分からず、自然に任せるしかない。

 

カメの村Ostionalは30分も歩けば村中の全員と仲良くなれる程の大きさだ。

アリバダ待ちのツーリストがちらほらいるが、世界中の注目の的となっている様な街には全く見えない。カメ目当てのツーリストは隣のリゾートタウンのNosara周辺にいて、カメが上がってきたという情報を聞きつけてそこからやってくるのが一般的らしい。カメが大量に上がってきた日から1日、2日後くらいまでがアリバダのピークとなるので、そこを狙えばこの村にいる必要はないのだ。

 

 

 

 

 

 

たまに海を見に行っては適当に時間を潰す。

村の人がみんなカメっぽい顔に見えるのは気のせいだろうか。

とりあえず、一杯・・・。

 

「カメの卵、1個100円。これ?チリソースにキミだけ入れてるのよ。噛んじゃだめよ、一気飲みよ。」

ピンポン玉の大きさの卵の皮は張っていてゴムボールのよう。私は以前に一度食べたことがあるので卵を飲み込む友達を横で見ていた。ザラザラして喉に残るあの触感。

「カメがきたら、フロータ、フロータっていう声がかかってサイレンがなるのよ。それで町中の人がカメのことを知るのよ」

 

 

 

 

 

 

「フロォタァ~ フロォタァ~」

 

サイレンは滞在最終日の日の出前に密やかな声で鳴った。

待った甲斐があった。

起きていなければ聞き逃していたかもしれない。焦って宿の裏手の浜辺へ出て行くが、カメの姿はない。浜は広大だ。どこかにカメがいるのだろうが、どこを探せばいいのか分からない。もしかしたらまだ海の中かもしれない。

しかし、ぽつぽつといる人の流れを追っていくと、海に流れ込む川の向こうに黒い丸い岩が波打ち際ににごろごろ転がっているのが見える。

川を渡ると足もとに写真で見たことのある光景が広がり始めた。

 

 

 

 

 

 

ただ写真や想像と違ったことは、観光客の少なさ、満ちるカメの体臭、卵を掘り返す犬と無数の黒い鳥と何十人もの村人たち、それを隠すように誘導する国立公園のガイド、昇ってくる強い日差し、カメが手足で砂を掻き土を叩く音、のっしのしと重たい足取り、足のかゆみ。

 

 

 

 

 

 

カメの産卵にセンチメンタルを思う人もいるかもしれないが、現場は人間主導だ。

カメの卵の採取は日本人が鯨を食べる感覚と同じであり、国立公園である浜辺でも村人は許されて採取が行われている。

アリバダ初日の朝一に観光客は少なく、しばらくは誰の許可もなくカメの間を自由に歩くことができた。それだけに、いろんなものの自由が見えて若干興醒めしたというの本音だ。カメの息遣いや、朝靄に急ぐゆっくりとした足取りに一人で見とれていたかったが、そんなわけにはいかなかった。

しかし、これが私の見た本当のアリバダだ。

 

一頭が陸にいる時間は1時間程で、あっという間にアリバダの山は過ぎ去っていった。

カメが人間や動物に対抗するかの如くものすごい数で一斉に陸へ這い上がって来るのは我々との戦いのためで、愛情をもってそれを観るというのも何か違う気がした。

カメの涙に理由があるならば、その理由は肉体的な産みの苦しみだけできっとはないだろう。

 

 

 

 

 

 

孵化は約1か月後。

海に孵る子ガメ達をみて、次はいったい何を思うだろうか。

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