友人の満腹君が珍しい木の樹脂の香をくれた。
それはよくあるスティック状ではなく半透明の石ころのようで、香りも中近東を彷彿とさせるかのような渋さのあるものだった。焚き方も直火ではなく、シーシャと同じようにあぶって煙を少しずつ出していくもので、これまた味がある。
匂いはいろいろな場面をフラッシュバックさせてくれる。
友達の家の匂いや食べ物、香水、時にいろんなものが記憶を蘇らせ、何か懐かしくなる瞬間が私はたまらなく好きだ。
南米では初めて嗅ぐ香木やハーブの香りに驚いたし、東南アジアでは強すぎる祭壇の煙に鼻を摘まんだのも思い出す。
良くも悪くも記憶に残る香りだった。
柑橘系の香り漂う畑の生活から東京へ。所用で3日間だけ帰ることになった。
満腹君に刺激され香木屋へ行ってみたかったが余裕がなく、昔から訪ねたかったKuumba Internationalの本店へ行くことにした。
渋谷駅から井之頭通りを代々木方面へしばらく歩き、細い路地の一角にお店は現れる。
店先にはピストやスケートがあって「その感じ」が香って来る。
ドアを開けるとKuumbaらしい繊細な香りに一瞬で包まれた。店内で流れるいい具合のHip Hopと相まって、なんだか酔っぱらってしまいそうになる。
Kuumba Internationnalはお香専門の会社。
この渋谷の店舗で製造もしており、Made in Tokyoのタグがラベルにも書かれている。
社長さんが熱心なラスタファリズムのお方らしく、お香のネーミングや店舗、グッズのデザインにもそのセンスが光っている。
「Latino Love」「Jamaican Queen」「Hotel」「Pussy」「Sunday morning」「Black Diamond」「Illest」などなどなど、350種類程もあるお香のネーミングは眺めているだけでどんなものかとそそられる。
ブランドや洒落たセレクトショップとのコラボレートによるオリジナル商品も展開していて、その香りのファンはさぞ沢山いることだろう。私が店にいた時もJazzBarの方がやって来て、お気に入りの香りを1万円分大人買いしていった。外国人のお客さんもかなりいるようだ。
商品は他の店舗やネットでも買うことができるが、渋谷の店舗に来ればすべてのお香とオイルの香りを視聴ならぬ視嗅することができ、購入することが出来る。
テーブルを囲んで椅子が7つあり、机上に10冊並んだファイルにはぎっしりとお香が敷き詰められている。端からレコードを掘るかのごとく香りを嗅いでいくが、1冊終わるころにはすでに匂いがよく分からなくなってしまった。1回来店したら1冊くらいが限界だ。ジャケ買いの要領で、名前が気に入ったのを選んでみるもの面白いかもしれない。
気さくな店員さんはこちらがこんなのが欲しいと言うと、イメージでどんどん香りを提案してくれる。しかしいざやってみると、香りを言葉で表現するのはなかなか難しい。気付くと1時間半が過ぎていて、体中がすっかりいい香りに染められた。それだけで来てよかったー、とほっこりしてしまった。
Kuumbaのお香は私にとっては正直高価な商品だ。しかし、それは素材からこだわって丁寧に作られた香りで、アジア圏の安価なそれとはまた別物。
細かく邪魔にならない煙と、焚き終わった後も部屋に残らず嫌味にならない香りは洗練された東京のイメージそのもので、その香りに包まれている時間はとても贅沢だ。
ここに来る度に、「東京だなぁ」と思える香りに巡り合えるなと思った。
今回は森の香りと赤いエジプトの香りを買った。しばらくは「そんな感じ」に包まれていられるだろうかと思います。
次はどんな新しい香りと出会えるのか、今から遊びに行くのが楽しみなお店、Kuumba Internationalでした。