山小屋で知り合ったテレビ番組のプロデューサーの方は、下北沢にある気流舎という古本屋の店員さんでもあった。
以前から雑誌の記事や知り合いの知り合いが働いているとかでよく耳にはしていた気流舎。
店番が毎日交代制らしく、いろいろな人種が交わっている人間交差点のようなところだなと気になっていた。
プロデューサーとの会話で、ハーポ部長という僕の好きなライターさんが働いていることも分かった。
ホームページではその日の店番の名前とイベントの予定が一目でわかるようになっている。
部長さんの店番の日に合わせ、山から下りてすぐにドアを叩いてみた。
店は下北沢の餃子の大勝の一つ先の角を右に曲がってすぐにある。
ステンドグラスのはめ込まれた木製の手作りのドアは中の世界観を見事にかもしだしていた。
「いらっしゃい」
プロデューサーから僕の話を聞いていた部長さんは快く出迎えてくれた。
普段、町で芸能人に会っても興奮することはないが、個人的に尊敬する人との初対面というのはなんだか変なわくわく感と緊張感を感じてしまう。
あちらはこちらのことを全く知らないけれど、こちらはあちらのことをなんとなく知っている。
「あ、初めまして、ファンです。」
という、男に言われたらもしかしてちょっと気持ち悪いかもしれない感じの一言でスタート。
インドの青鬼という長野の地ビールを飲みながらあれこれ話しだす。
店内は狭いが、店中央に置かれたテーブルを中心に、壁3面に本が敷き詰められ、残りの1面にトイレと簡潔なキッチンがあった。
本のセレクトはカウンターカルチャーの図書館とも呼べる品揃え。
カルチャー、旅、デザイン、音楽、ドラッグ、スピリチュアル、政治、哲学、心理学、民俗学、ヒッピー、宇宙、写真、アセンション、下北沢関連、アート、ZINE などなど。
「対抗文化専門古書」と自称する店のサブタイトルがこれほどぴったりと当てはまっている店を他には知らない。
頼りない階段を上ると2畳ほどのロフトがあり、その日はプリミ恥部さんによる宇宙マッサージが行われていた。
すでに予約で満員らしく、順番を待つ女性がチャイやコーヒーを飲みながら本を読んでいる。
落ち着いた照明加減とチャイのスパイスの香りで店内に心地よいホッコリ感が漂っている。
部長さんに僕の書いた文章やらMIXCDやらステッカーなどを手渡す。
ビールも2本目になると話もかみ合いだし、普段は静かだという店内は順番待ちのお客さんも巻き込んでバーのような感じになった。
部長についてはルーツミュージックやサブカル雑誌への寄稿を読むことしかなかったのでインドア派のシティー派なのかと勝手に思っていたが、本当は根っからの旅好きで僕の旅の話をよく聞いてくれた。
興味の対象が大分似ているらしく、お遍路やスペインのカミーノの話で盛り上がったのは意外だった。
部長曰はく、気流舎にはいろんな人が来るけど旅人は新鮮な風を吹き込んでくれる存在だよ、とのこと。
自分が言われているようで、なんだか嬉しくなる。
同じ物書きとしてのアドバイスや、ZINEの作り方、部長のラスタに関する記事がボブ・マーリーの孫に読まれて賞賛されたことなどなどなど、文章で表現することの意義についての話が出来たことも貴重な体験だった。
部長さん、ありがとうございました!
その本のセレクト、開かれるイベント、店番然り、気流舎の懐は深い。
久しぶりの下北沢で、久しぶりに下北沢に触れたような気がした。