Culture

2017/11/21
粋なコスタリカ人

sonámbulo(スペイン語で夢遊病の意味)というコスタリカのManu chao的バンドを見た帰り、首都への30分ほどのバスへ乗った。

客はほとんどが同じライブ帰りの十代後半かそこらの若者達で、最後に乗り込んだ20人くらいのグループで車は満員になり、ゆっくりと走り出した。

 

夜7時。山肌に夜景がチラホラ見えている。

普段だったら1日が終わって遠くを眺めてぼんやりしているバスの車内だろう。

町の街灯はオレンジ色、車内は真暗で、並びの席の顔がたまにチラッと見えるくらいだ。隣には顔半分黒い覆面をした兄ちゃん。通路を挟んだ向こうの席にはショートカットの髪を左から赤、青、黄色に染めたキューピー人形のような子、奥の窓側にはいかにもコスタリカの悪ガキ的な赤のnew eraとタンクトップの少年がいる。

 

 

 

 

山道に揺れる車内はずっと前から夢遊病の歌とジョークでライブの延長戦が爆音のまま続いている。

誰かがでかい声でアホなことを言うと、全員で漫才の演者と客をしているようなことになる。

とにかく愉快だ。

 

「ホモ野郎は手を上げろー!あははは、立ってるやつ全員ホモだな、もう手上げてるもんなー、あははは。バーカやろー、あははは。おーい、運転手!運転手!運転手!運転手!ィエー!ホー!早く!もっと早く早く!(おい、バスを叩くんじゃねぇぞ、ガキども、なんも壊すんじゃねぇ!あと、草吸うんじゃねぇぞ!降ろしちまうからな)わかってるよ、運転手!俺らなにも悪いこたぁしねぇ!みんな、分かったかー、バスは大事にしやがれ!ィエー!フォーフォー!運転手!運転手!運転手!最高だー!」

 

行先は大体みんなサンホセの中心だ。

しばらく誰も乗り降りしない。

バスに乗れなかった客をちゃかしたり、みんなでバスをゆすって楽しみ放題だ。

隣の覆面がふと煙草を吸いだした。

 

「おい、ばか!タバコ吸うなよー!あははは、なにやってんだ、あはは。おし、焚くぞ!こーなったら焚くぞー!焚-け!焚―け!焚―け!ィャッホ!燃やせ!燃やせ!燃やせ!バビローン!ポポポッ!」

 

後ろでクリッパーのしっかりした火が灯って、ゆっくりと安い香りの煙がやってきて、ジョイントがやってくる。

覆面はその幕の下でごついパイプで一服している。

 

「ゥエー!焚きやがったー!ィエー!イェー!」

 

バスは香りでむんむんとなった。

少しずつ夜の風が小窓から入り込んで煙を街へと逃がしている。

煙が車内を回り終える頃には、車内にある共通の一体感に誰もが気が付いていた。

 

 

白いくたびれたポロシャツの小太りな白人の運転手が客を見渡すためのでかいミラーを見ている。

白髪が混じり始めた頃だろうか。

 

最初はでかい声で成り行きを心配していた彼も、中盤から近くの乗客と何かにこやかに談笑している顔が見えるようになった。

ガキに諦めたというよりは、車内で起こっているそのまるで映画のような雰囲気と煙に酔ったのだと俺は思った。

 

乗客は大歓声のなか、無事に町の真ん中に到着した。

バスの前と後ろにあるドアから客は降りたが、どいつもが運転手にニコニコで挨拶をしに行った。チップを渡してる奴も沢山いた。

運転手は「こんなのは長いこと仕事してても初めてだぜ、ガキどもが、ふはは」とでも言いたげなはにかんだ笑顔を浮かべて、運転席から外の通りを見渡していた。

そして、今日はいい一日だった、と乗客達は思った。

キッズたちはそのまま夜の街へと繰り出していくのだった。

 

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