街の暮らしには銭がいる。
暖かくなるまでは動く気があまりないので、3ヵ月くらいは大阪に居ようかと思っている。シフトでバイトに入るには微妙な期間だ。
「ずっと働けるって言って契約しちゃえばいいのよ。辞めたいときにすぐ辞めればいいじゃん。日本人はこういう方便は言わないみたいだけど。私は旅を続けなきゃいけないからね、言っちゃえばいいのよ、とにかく。ウフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ」
と、ある外国人は行った。
この人のために祈ってあげたい。アーメン。
俺は「日本人」なので、日払いか短期でも入れる仕事を探すことにした。
宿の窓からは一日に何度もUber eatsの四角いリュックを背負った自転車が行きかうのが見える。自転車を漕ぐのならお任せあれだ。
俺の道はこれなのかも!
登録アプリに不具合があったので、すぐに心斎橋にあるUberの事務所へ伺った。
善は急げだ。
受付の人に話をすると、「アプリに関しては自分で解決してください。ネット上でしか登録できませんので、よろしくお願い致します」と丁寧に追い返されてしまった。
俺という人間は今、あなたの目の前にいて、これ以上絶好の「証明」など存在しないはずなのに・・・。Uber eats、なんというシティーな仕事なのだ・・・。
ネット登録なんてのはいたって普通のことなのかもしれないが、東北で飛び込み仕事ばかりしてきた俺にとってはハテナな感覚だった。
労働力なんてのはこんな感覚で時間の切り売りをしているだけだ。人格とか適正とかバイブスとか、てんでどうでもいいのだ、かなりの場合。
でも使われる俺にとってはどうでもよくない。
意味のある仕事は自分の足でゲットしなければだめだ。
人伝だ。
と、思って、宿のオーナーやイベントで知り合った人に片っ端から「私求人中でして、短い期間で実りある仕事を探しております」と言い触れまくった。
住み込んでいる宿のオーナーは冗談交じりに色んな人に声をかけてくれ、死体処理や精子バンク、レンタル彼氏、風俗の替え玉まで幅広くブラックな仕事を沢山紹介してくれた。
解体や居酒屋を紹介してくれる人もいたが、ピンとくるものには中々出会えない。
しかし、あせりは禁物だ。
毎日水炊きを食べてコーヒーを淹れ、いぶし銀の飲み屋を探す日々をのんのんと送っていると、とある日イベントで知り合ったクリスタルちゃんから写真が送られてきた。
「「タケリアラフォンダ」っていうタコス屋でバイト募集してたよ~!」
ネットで店の写真を確認してみると、小さな個人経営の店構え、カラフルなメキシコの旗とかわいいドクロ達、テカテやドスエキスの懐かしいメキシコビール達がそこには並んでいた。
・・・ここだ。
これだ。これしかない、これだ。 俺には分かるぞ。 ここだっ!!!
チャリンコで勢いつけて開店時間に伺うと、Cerrado(閉店)の看板をひっくり返す男前な男性が現れた。
俺の顔を見るなり、「あ!温泉の人!?」
!お! 話は通っていた。ありがとう、クリスタルちゃん。
最初のお客さんがやって来るまでに自分の状況と仕事への熱量をお伝えする。
落ち着いた喋り口のオーナーさんはすぐに俺のスタイルや人となりを理解してくれたようだった。人間、一言言葉を交わせば分かる人には分かるということだ。
「これもご縁だな。よし、じゃぁ、やってみますか!」
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
大阪に滞在する基盤が出来た。
この冬はすぐに田舎へ逃げ込まなくてすむかもしれない。
都会でも魂を売らずに手ごたえある暮らしを送りたい。
精一杯楽しんで、重たい銭を得たいと思っている所存であります。
わたくし、働きます。