流しそうめんパーティーには10人ちょっとが集まった。
こんな山奥の古民家にスーツやヒール姿の別府市役所職員がいるのがそうとうミスマッチなコラージュ感を醸し出している。
他に、芸術家は格安で住めるという、きりしま荘という名のアパートに住んでいる2人がやって来ていた。
パーティーには何故かそうめんだけでなくカレーも並んでいる。
話を聞いていくと市役所職員はカレーの方がお目当てのようだった。
リョー君とゴー君は別府に来た当初、温泉の聖地鉄輪地区で2カ月間カレー屋を開いていたらしく、そのカレーの写真を役所企画のウェブサイトにのせるための撮影会というのがパーティーの根幹らしかった。
ちらかりまくっている話がだんだんと収拾し始めた。
リョー君はcompumaのTシャツを着ている。
流れで今夜は泊まらせてもらうことになった。酒を飲み始める。
「ここの家、ゴミだらけだったんですけど、だんだん綺麗にして住めるようになってきました。この酒もその時出て来たんです。蜂漬けの古酒ですよ」
ゴー君、リョー君は別府で3、4個所を転々とした後にここに住むことが決まった。
野湯でテント暮らししたり、空いた旅館(廃墟)の2階に居ついたり。
辿り着いたこの場所が彼らにとって心地いいのはすぐにわかった。
家の前にはトウモロコシが植えてあり、田んぼもいじり放題。手放された炭焼きの窯もある。つまり里山の暮らしができる。家賃は月5000円だ。
「いいとこ見つけたね。人伝?」
「そうですね、最初からはこういうとこは難しいですよね。大家さんが誰にでも家を貸してくれるわけではないし」
カンカンカンカンカンカンカンカン
「なにあの音?」
「近所のばあちゃんがイノシシ除けで鍋叩いてるですよ、朝までちょこちょこ続きますよ。90歳のばあちゃんなんですけど、まじすごい人です」
田んぼに張り巡らされたLEDの獣除けのテープがパーティーのデコさながらにギラギラしている。しまくっている。
20人くらいはゆうに踊れるだろう音量でBOSEのスピーカーからはディスコが流れている。苦情なんてのは違う世界の話だ。
季節労働者とかふらふらしている人間がどこかに家を持つようになるには理由がある。
全部の根底にあるのは暮らしがしたいという欲求だ。
音楽がステレオで聞きたい。机でパソコンを開きたい。誰にも気にされずに昼寝がしたい。好きな時にシャワーを浴びたい。住所や冷蔵庫、洗濯機の便利さを実感したい。自分で育てた野菜が食べたい。食事に合わせて食器を選びたい。子育てがしたい。教会に毎週通いたい。近所の人と日常の会話がしたい。社会や地域との接点が欲しい。未来の大きな不確定を忘れて日常にゆらめきたい。育っていったり育んでいくものの流れの中に自分があることを感じていたい。
そんなこと全てはほとんどの日本人が享受しているベーシックライフなのだが、流れてしまう人間にとってはプレシャスでプライスレスでプライマルな「甘い生活」だ。
私は住む場所を探しているがいったい自分が家探しを通して何を探しているのかをよくよく考えてしまい同じところを周り回っている気分になってしまった。
結局は出会いでしかないのだろうが私は本当に出会うのだろうか。有り勝ちだが、もう出会っているし、いたのであろうけれど。
それは広い地球のためでなく、もっとひろい私という宇宙のためだろうと思う。
終わり